10月の読書感想

■『怖るべき天才児』-Unlikely Progeny- 作リンダ・キルト/絵ミヒャエル・ゾーヴァ 三修社 2006年11月 ★★★★★

嘘をつく度にカエルが口から飛び出す少女、横領の容疑をかけられた記憶できない男、両親の記憶にも残らないほど普通すぎる少年、ピタゴラスの定理を積木で現す生後10ヶ月の赤ん坊、自分の名前を大声で言うと相手が永久に消えてしまう少年、産まれ落ちたときからほとんどの時間を眠って過ごす少女、鉛の靴が必要なほど体重の軽い太った男。一風変わった人生を送った7人の物語。


毒が散りばめられたピリリと脳ミソを刺激する辛口の短編集で、どれも落ち着かない気分にさせる。ほんわかタッチとホラーな視線にギョッとするミヒャエル・ゾーヴァの挿絵も素敵。トンチンカンな邦題が勿体ない。購入無用、図書館で。


■『そうだったのか! 現代史』池上彰 集英社文庫 2007年3月(2000年11月) ★★★★★

朝鮮戦争キューバ危機、ポル・ポト、旧ユーゴ紛争など、脳ミソからすっぽり抜け落ち「あー・・・それってなんだっけ?」となっている世界の一大事をさっくり復習。素晴らしく分かりやすい。著者の名前を見てもピンと来なかったが、テレビで見たことのある額の広〜〜〜い人。パート2もあり。100円で買いたい。


■『ジャンパー グリフィンの物語』-Jumper Griffin's Story- スティーヴン・グールド ハヤカワ文庫SF 2008年3月(2007年) ★★★★
5才の時に“ジャンプ”=テレポーテーション能力に目覚めた、イギリス人の少年グリフィン。それが出来る人間、“ジャンパー”を追う危険な者たちがいると気づいた両親は、グリフィンに“ジャンプに関するルール3ヶ条”を課し、各地を転々と移動する生活を余儀なくされる。


銃の狙いすらつけさせない訓練を父親と積み、自宅学習を続け9才になったグリフィンは、子どもらしい過ちから取り返しのつかない結果を招いてしまう。大怪我を追って1人で逃げた不毛の土地で、不法移民者を助けていた男女の世話になり平穏な生活を始めるが、そこにもジャンパーを抹殺しようとする謎の組織“パラディン”(正義の戦士) が迫りつつあった。


前作「ジャンパー 跳ぶ少年」(上下巻)は、幼い頃に母親が家出し暴力的な父親と暮らす17才のディヴィーが、自身にテレポーテーション能力があると気づき家出。ニューヨークでジャンパーとして新たな生活を始めるが、ある悲劇が彼を苦しめる。生真面目な責任感と、抑え難い復讐心にもがき成長していく姿が、ツボをきっちり押さえて続編への期待高まる爽やかな余韻を残した。小学生にお勧めの1冊。100円なら買い。ディヴィーが主人公の続編「Reflex」は、邦訳未発売。


2008年公開の映画「ジャンパー」は、ヘイデン・クリステンセン演じる主人公ディヴィーが、17才の時に“初ジャンプ”し家出するという設定以外のほぼ全てを変更。平凡に生きる人間を愚弄するかの如く、幼稚で無責任なディヴィーとスカスカな内容に、気が遠くなるほど駄作となった。本書は映画の中でパラディンについてディヴィーに教えた、原作には登場しない青年グリフィンの16才までの物語。映画でディヴィーたちを執拗に追う、サミュエル・L・ジャクソン演じるローランドは、ちらりと名前が出てくる程度。常に凄惨な死がつきまとうグリフィンの逃亡生活は、ディヴィーより幼いだけに切なく、ホロ苦い余韻を残すこちらも続編に期待。100円なら買い。


■『リ・ジェネシス -感染-』-Re: Genesis- 東野司 編著 扶桑社 2007年8月 ★★★
熱病に似た症状から既知の伝染病にない早さで死に至る症例が連続発生する。調査を求められたNorBAC(北アメリカバイオテクノロジー諮問委員会) の主任科学者デビッドのチームは病原体の特定を急ぐが、ウイルスと症状の矛盾に行き詰まる。時を同じくして、あと僅かしか生きられないという少年がデビッドに助けを求める。彼は自分がクローン人間だというのだ。


クローン人間? 勘弁してよ〜と読む気が失せた人も、この少年はあまり重要ではないので大丈夫。「リ・ジェネシス」は、カナダで2004年から放映され、同国のエミー賞とも言われるジェミニ賞で2部門受賞した連続ドラマ。各分野のスペシャリストたちが、1から9まで仮説と検証で行ったり来たりを繰り返している間に、それらの断片から10の答えをポンと出す、傲慢な超天才デビッドの思考の走る瞬間にヤミツキになる。1つの話を複数回でやるので、CSI:シリーズよりも面白い。シーズン2の最終話はここで終わるか? コンチクショー!! な中途半端さに腹が立つので要注意。この本はシーズン1の最初の方のエピソードのノベライズ。小説を期待すると翻訳にイライラする。購入厳禁、図書館で。


■『幸運の25セント硬貨』-Everything's Eventual II- スティーヴン・キング 新潮文庫2004年6月 ★★

創業から68年の間に、30人の自然死と12人もの自殺者のあったドルフィンホテル「1408号室」。13階にあり、全ての数字を足すと13となるこの部屋へ宿泊するため、心霊現象を信じないオカルト作家のマイクは、ホテルの支配人オリンの必死の説得を振り切り入って行く。近日日本公開、「ショーシャンクの空に」を越えてキングのNo.1ヒットとなったジョン・キューザック主演「1408号室」の原作含む、7つの短編集。


他には、知人の死亡後に正体不明の男に週給70ドルで雇われた青年の秘密「なにもかもが究極的」。惜しい。長編で読みたい。
妻が行方不明中の同僚L・Tが語る「L・Tのペットに関するご高説」。パッとしない。いま千歩。
ガレージセールで一目惚れした絵を自宅へ持ち帰る「道路ウイルスは北へ向かう」。よくある話。いま一歩。
離婚のための話し合いをする「ゴーサム・カフェで昼食を」。後半、キングらしくてワクワクする。いま一歩。
結婚25周年のお祝いに2度目のハネムーンを過ごす「例のあの感覚、フランス語でしか言えないあの感覚」。いま百歩。
チップとも呼べない25セント硬貨がメイドにもたらす、わらしべ長者物語「幸運の25セント硬貨」。いま千歩。


「1408号室」「なにもかもが究極的」「ゴーサム・カフェで昼食を」の3作で★2つ。全体的にパッとしない。その物語を執筆するきっかけとなった出来事を語る、キング自身の解説が全篇にある。むしろこっちの方が興味深い。購入厳禁、図書館で。


■『B型 自分の説明書』Jamais Jamais 文芸社 2007年9月 ★★
自分をうまく説明したいB型の、B型の実態を知りたいB型以外の人のための、B型の説明書。

O型の母親以外、父親・2人と姉とともにB型の私。薄い本にバカでかい文字なので書店でほとんど立ち読みしたが、途中でめんどくさくなって図書館で借りた。で、ゆっくり読んでもやっぱり途中でめんどくさくなった。拾い読みする分には楽しいけど、延々と同じ事が続くのでどうにも飽きる。自分圏内にB型の人が居る人に。購入厳禁、立ち読みで。


■『本は10冊同時に読め! ―生き方に差がつく「超並列」読書術 本を読まない人はサルである!』成毛眞 三笠書房 2008年1月 ★
本は最後まで読まない、時間をかけて選ばない、目的意識を持って読まない。
複数冊を「すき間時間」に平行して読むからこそ、集中力が増し、自分に必要な本と情報を選び取る判断力を養える。まったく違うジャンルの本を、同時並行的に読みあさり、仕事と人生に効く究極の読書術を身につけるコツをアドバイス


著者は、『「ノルウェイの森」を読んだときは1時間ほど立ち上がれず、「海辺のカフカ」を読んだときは1週間以上会社に出られなかったほどショックを受けた』という、だから? と言いたくなる何だか分かんない人で、『小説(とくに純文学) はほとんど読まない人間である』そうだ。というワケで、娯楽小説しか読まない私には、ガッチガチに固い価値観を広言する事を憚らず、トンチンカンな事ばかり言っている別世界な人。この人、アタマ悪いんじゃないの? と思っていたら、元マイクロソフト社長。アタマが悪いのは私でした。購入厳禁。ベクトルの違うアタマの悪さを確認したい人は立ち読みで。