3月の読書感想

■『ザ・ロード』-The Road- コーマック・マッカーシー 早川書房 ★★★★★
動植物は死に絶え、地上には灰が降り積もり、人間に貪り喰われた死体が道端で朽ちている世界。急速な寒冷化が進み、飢えと寒さに衰弱する中、僅かな荷物をショッピングカートに載せた父親と幼い少年は、南を目指して旅を続ける。


しとしとぴっちゃんしとぴっちゃん、しーとーぴっちゃ〜ん♪ 読んでいる間中、この歌が頭の中でグルグル回ってた「終末世界の子連れ狼」。殺すか、食われるかの二択しかない現実で、息子を護るためだけに生きながらえている父親と、文明が崩壊した世界しか知らない少年の純粋さに胸が締め付けられる。手垢のついた世界観に、ところどころ強烈なパンチが繰り出され、2人の旅から目が離せなくなる。ひとつ難点を上げるなら、前作『血と暴力の国』(映画「ノーカントリー」の原作本) と同じく、1つのセンテンスが長く読点のない著者の作風。例えば、


『柔らかな黒い粉が海底で吐かれる烏賊墨のように街路を吹き抜け冷気が忍び寄り闇が早い時間に訪れて使えるごみをあさる者たちは松明を手に峡谷の急な斜面を降りてきて自分たちの背後で漂う灰の上の眼のように音もなく閉じる滑らかな穴を踏んだ』(本文165pより)


・・・何だって? 相変わらず読みづらいったらなくて、文字を追いかける目玉と脳ミソが息切れする。ヴィゴ・モーテンセン主演で今秋全米公開、超期待。購入もお勧めだけど、図書館で。


■『ぼくは考える木 自閉症の少年詩人と探る脳のふしぎな世界』 ポーシャ・アイバーセン 早川書房 ★★ 

  • Strange Son Two Mothers,Two Sons,and the Quest to Unlock the Hidden World of Autism-

アート・ディレクターとしてエミー賞を受賞し、プロデューサーの夫ジョンとともに成功を夢見ていたポーシャは、息子が重度の自閉症と知り、自閉症研究を推奨する財団を設立。その活動の中で、インドに会話も行動の自制もできない重度の自閉症でありながら、文字盤を使って母親に意思を伝え、美しい詩集の本を出版している11才の少年ティト存在を知る。ティト本人は「聴覚的な言葉と視覚的なイメージを別々に処理している」というのだ。視覚に頼る高機能の自閉症と、聴覚を頼る知的障害があるとみなされる、2つのタイプの自閉症があるのではないかと考えたポーシャは、一切のコミュニケーションのできない息子への望みを持ち、ティトの知性の謎を解き明かすために奔走する。


ポーシャの招きで自宅を訪れるものの、恐怖を覚えるほどに破壊行動に及ぶ「会話のできない」ティトが、帰宅後に「活字」を通し、その時の心情を理路整然と自己分析し聡明さを滲ませる不思議。専門家の助けを借りた実験も失敗するが、活字で問えばきっちり理解してる。もう、わっけ分からん!! 息子の心と繋がりたい、分かり合いたいと切実に願う母親ポーシャとともに、一括りにできない複雑な世界を少しでも理解したいと思う。ジュリア・ロバーツ主演で映画化予定。購入無用、図書館で。


■『最後の授業 ぼくの命があるうちに』-The last lecture-ランディ・パウシュ/ジェフリー・ザスロー著 ランダムハウス講談社 2008年6月 ★★
2007年9月、講堂を埋め尽くした400人の聴衆を前に「最後の講義」が始まる。バーチャルリアリティの第一人者とされ、コンピュータサイエンス界の世界的権威と称される、カーネギーメロン大学教授ランディ・パウシュが、癌の転移と余命宣告を告げられてから1ヶ月後の出来事だった。彼が影響を受けた恩師の言葉や、子どもの頃からの夢の数々、愛する妻と幼い3人の子どもたちへの伝えたいことを綴る。


46才で余命3ヶ月から半年と宣告を受け、残された時間を冷静に判断し確実に夢を実現していく著者。傲慢で頑固で合理的な思考と、誰もが真似できない生き方に圧倒される。購入無用、図書館で。


■『偽善エコロジー 「環境生活」が地球を破壊する』武田邦彦 幻冬舎新書 2008年5月 ★★
「レジ袋をやめてエコバッグにすると、かえって石油の消費が増える」「冷房28度の設定で温暖化は止められない」「牛乳パックのリサイクルは意味がない」。環境のためと称し、国や自治体が大金を投じる「地球に優しい生活」の矛盾を指摘し、瑣末なエコロジー固執する事なく、本当に環境に良い生活とは何かを問いかける。


社会全体でレジ袋の削減を推進する行為は逆効果、というのは目から鱗だった。ていうか、タダなら取りあえず貰っておけ!! とばかりに、使い切れないほどエコバッグを溜め込んでいる私が1番タチが悪いんだけど。といいつつ、次の機会もまた貰う。全体的に言いがかり的な内容が続くため疲れる。購入無用、図書館で。


■『人が壊れていく職場 自分を守るために何が必要か』笹山尚人 光文社新書 2008年7月 ★
いじめ、パワハラ、解雇、雇い止め等、青年労働者・非正規雇用労働者の権利問題を中心に、労働者側に立って弁護を経験した著者が、「法令を守らない雇用者」から不当な扱いを強いられる「立場の弱い労働者」を守る取り組みを紹介する。


労働者が勝利するケースしか紹介せず、詳細な経緯を書けないせいかもの足りない。1万円札を握りしめて訪れた者の依頼を引き受けるなど、連続ドラマのように解決していく展開にうんざりする。購入無用、立ち読みで。