小説『モールス』

『MORSE -モールス- <上下巻>』-Låt den rätte komma in- ヨン・アイヴィデ・リンドクヴィスト ハヤカワ文庫NV 2009年12月 ★★★★★


[ストーリー] スウェーデンストックホルム郊外ブラッケベリ。母親と暮らす12歳の内向的な少年オスカルは、同級生から陰湿ないじめを受ける日々を、残忍な復讐を果たす妄想で耐えていた。ある夜、家を抜け出したオスカルは、父親と2人でアパートの隣の部屋に越してきた美しい少女エリと出会う。エリの不思議な魅力に惹かれたオスカルは、夜になると家を抜け出すようになる。エリは陽が落ちるまでは、決して外に出てこないからだ。友達のいないオスカルはエリにモールス信号を教え、壁を隔てて友情を育むようになる。しかし、エリの出現と時を同じくして、街では儀式的な殺人を思わせる猟奇事件が相次いでいた・・・。スウェーデン映画『ぼくのエリ 200歳の少女』、米国リメイク版『モールス』の原作。


[感想] 『ぼくのエリ 200歳の少女』って、どんな酷いタイトルだ。200歳の少女って何だ。いきなりネタバレか!! というワケで、エリは12歳の身体に永遠の命を閉じ込められた200歳のヴァンパイア。「インタビュー・ウィズ・ヴァンパイア」のクローディアや、「屍鬼」の沙子など、大人の知性を持つ少女のヴァンパイアはめずらしい話ではないけど、エリは同族と行動せず、仲間を増やさない。一匹狼ならぬ、一匹蝙蝠。


エリの正体を嫌悪し、恐怖と拒絶と友情に揺れるオスカル。永遠の孤独の少女と多感な少年の出会いが、小さな街でささやかな人生を送る者たちを、恐怖に引きづり込む。仲間の1人が行方知れずとなり復讐に燃える男、何者かの襲撃を受け肉体の変異に脅える女性、オスカルと親しい不良少年、儀式殺人の捜査担当ではない優秀な刑事、オスカルを持て余す母親、そして、エリに迫る捜査の包囲網。どうなる!! 登場人物は多くはないけど、トンミ、ヨンニ、インミ、ラッケ、ヨッケ、ミッケ、とスウェーデン人の名前がちょっとめんどくさい。ユッケか。焼き肉か。ユッケは居ないんだけど。


少年たちのいじめは刑務所へブチ込め! と思うほど悪質で凶悪だ。殺害場面もひどく生々しい。死が許されない者の末路は壮絶で、執着の哀しみに満ちている。容赦のない凄惨な場面と200年前のエリの過去が繊細に描かれ、愛情ゆえに判断を誤る戦慄のドラマに釘付けにする。キュ〜ンと切ない甘酸っぱい少年の初恋は、「うっそー!!」の驚愕隠しネタ。他人を殺して生き続ける事に迷いのない冷淡さと、1人では生きられない脆さが同居するエリの危うさに絡めとられていく、少年オスカル。目を覚ませー!! 出会った瞬間から定められた結末が、背筋の凍る怖ろしさを醸し出す。一時の優越感で、繰り返される哀しい余韻が後を引く。

MORSE〈上〉―モールス (ハヤカワ文庫NV)

MORSE〈上〉―モールス (ハヤカワ文庫NV)

MORSE〈下〉―モールス (ハヤカワ文庫NV)

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ぼくのエリ 200歳の少女 [DVD]

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