2月鑑賞の映画感想

■『TIME タイム』-In Time- ★★


[ストーリー] 老化遺伝子の除去方法の発見により、全ての人類の成長が25歳で止まった近未来。人々は25歳になった瞬間から、腕に埋め込まれた「余命時間」がカウントダウンを始める。時間はこの世界の唯一の通貨であり、社会生活における全てが“自分の余命”で清算されるのだ。富裕層は25歳の姿のまま永遠に近い時を生き続けるが、貧困層は余命時間が0になった瞬間にのたれ死ぬ。平均余命が23時間しかないスラムゾーンで暮らす者たちは、ローンで時間を借り、睡眠時間を削って働き、時には腕を接触させる事で他人の時間を奪っていく。


幼い頃に父を亡くした28歳のウィル(ジャスティン・ティンバーレイク) は、肉体労働でぎりぎりの時間を繋ぎながら、スラムゾーンで母親(オリヴィア・ワイルド) と暮らしていた。ある人物から117年もの時間を譲り受けたウィルは、禁止された<タイムゾーン>を通過して富裕ゾーンへ潜り込み、親の管理下で何不自由なく暮らす大富豪の娘シルビア(アマンダ・サイフリッド) と出会う。しかし、時間の動きを監視し、スラムゾーンからの侵入者を発見したタイムキーパーのレオン(キリアン・マーフィー) に拘束され、シルビアを強引に連れ出し逃走するが・・・。アンドリュー・ニコル監督、109分


[コメント] わずか30分の時間の譲り合いが命を落とす。自分の持ち時間が尽きた瞬間=死、というこの世界の厳格なルールを示すオープニングがスリリング。その日暮らしに追われながらも、人間らしく生きるスラムゾーンの者たちは、着脱が簡単な服を着て、とにかく走っている。母親を気遣うウィルは度重なる物価高に苦しみ、寿命を伸ばすために必死に時間を稼ぎながら、近所の子どもにせがまれれば5分あげたり、あげてる場合か!! コーヒー1杯にも4分の寿命が消えていく。飲んでる場合か!!


実年齢が無意味となった社会では、祖母も母親も娘も父親も、金持ちも貧乏人もゴロツキも、超高齢ジイさんも売春婦も、誰もがみんな25歳の姿のまま。なんてややこしいんだ。いちいち申告してもらわないと分からない。ていうか、キリアン・マーフィは25歳には見えないだろう(35歳)。主人公のウィル(見た目は25歳、映画年齢28歳、俳優実年齢31歳) と、母親役のオリヴィア・ワイルド(見た目は25歳、映画年齢50歳、俳優実年齢28歳) の、ありふれた親子の会話と外見のギャップが面白い。


見た目が25歳の俳優しか出演しない本作品では、個性的なインパクトを放つ若手美男美女俳優が勢揃い。


ジャスティン・ティンバーレイク(31歳) イケメンシンガー
アマンダ・サイフリッド(26歳) 限界ギリギリでカエル顔を免れた、痩身巨乳のドール嬢
オリヴィア・ワイルド(28歳) 「Dr.HOUSE」のサーティーンこと、人類離れした虹彩のクールビューティ
マット・ボマー(34歳) 「ホワイトカラー」の超絶イケメン俳優
アレックス・ペティファー(21歳) 「アイ・アム・ナンバー4」のギリシャ彫像のようなパーフェクト王子


テクノロジーでは近未来感を感じないこの映画の中で、彼らの進化した容姿がまさに未来的。生死を管理された社会に疑問を持たずに生きていた青年が、奪われる余命時間の真実と、時間の支配者を追求するサスペンス、という展開かと思っていたけど、身分違いの愛と現代版「ボニーとクライド」。ウィルが富裕ゾーンへ入った辺りから、どうしようもなく詰まらなくなってしまう。映さなきゃいいのに自動車事故のCGが恐ろしくショボイ。ウィルの父親の死については、引っ張ったわりに拍子抜け。


盗作疑惑で公開中止の訴訟を起こしたハーラン・エリスンのSF短編小説『「悔い改めよ、ハーレクィン!」とチクタクマンはいった』は、タイムキーパーが全市民の寿命を管理し、遅刻で無駄にした時間を余命から引いていく社会。秩序に混乱をもたらしたハーレクインを、チクタクマンことタイムキーパーが逮捕する、というような話。この映画の余命時間の切迫感や格差社会、時間=通貨という設定とは全然ちがう。キリアン・マーフィー演じるタイムキーパーのキャラクターが断然良かった。「ガタカ」の監督・脚本が、何故こんな面白い設定を生かさない映画になるんだろう。


ところで、余命時間の13桁の数字<0000・00・0・00・00・00>は、何故か日にちの1桁台が別。カウントダウンされるケタ数の多い数字に焦って、パッと見て読みきれない。残り5時間なのか、50分なのか、5分なのか、「5」しか見てなかったよ!! という場面があったので、「0000年、000日、00時間、00分、00秒」という風に字幕で補足してくれないものでしょうか。配給会社の温情で。そんな数字に弱いバカは私だけ?


『「悔い改めよ、ハーレクィン!」とチクタクマンはいった』収録
[rakuten:book:10950428:detail]


■『ドラゴン・タトゥーの女 -The Girl with the Dragon Tattoo- ★★★★★


[ストーリー] スウェーデンストックホルム。政治や金融業界のスキャンダルを暴く、月間誌『ミレニアム』の発行責任者で、ジャーナリストのミカエル・ブルムクヴィスト(ダニエル・クレイグ) は、大物実業家ヴェンネルストレムへの名誉毀損の裁判に敗れ、ほぼ全ての財産を失う。雑誌存続の危機に一時ミレニアムから離れたミカエルへ、かつてスウェーデンの経済界に君臨した、大財閥の前会長ヘンリック・ヴァンゲル(クリストファー・プラマー) からある依頼が舞い込む。


40年前にヴァンゲル一族が集う孤島で忽然と姿を消した、当時16才の姪ハリエットの未解決事件の真犯人を突き止めて欲しいというのだ。ヴェンネルストレムを確実に仕留める証拠資料を報酬に、調査を引き受けたミカエルは、肩から腰にかけてドラゴンタトゥーを入れた警備会社の凄腕調査員リスベット・サランデル(ルーニー・マーラ) に協力を頼む。調査が進展を見せる中、2人は富豪一族に隠された確執とおぞましい罪をあぶりだしていく・・・。


本シリーズが処女作となる著者が出版前年に急逝し、世界中で大ベストセラーとなり著者自身が“伝説”となった、北欧スウェーデン発ミステリー「ミレニアム」シリーズ1作目の2度目の映画化。デヴィッド・フィンチャー監督、158分


[コメント] 原作はベストセラー、すでに母国語でシリーズ3作品を映画化済みで、本作品は米国リメイク版。通常のパターンなら原作を頂点にした三段逆スライド方式で劣化してしまうところが、監督の才能の違いをまざまざと見せつけられる秀作。オリジナル版は原作を忠実になぞり、イメージ通りの映像化ではあったけど盛り上がりに欠け、本作品と比べれば気の毒なくらい見劣りする。燃費重視の大衆車と無駄を省き完璧に整備されたレーシングカーみたいな。なんだそりゃ。度肝を抜くクールなタイトルロールの映像に引きづり込まれ、興奮のあまり鼻血が出そうだった。


冷静で思慮深く道徳的なミカエルと、反社会的で独自の論理でのみ動くリスベット。価値観がまるで違うコンビの活躍で暴かれる一族の過去と猟奇殺人事件。2人は40年の謎の真相をわずか1年で突き止める。地元警察はボンクラか!! 一族の確執や事件を解明する過程と結果、ハリエットが死ななくてはならなかった理由が簡潔に説明されるため、若干もの足りなさを感じるのは「ミステリーとしては面白くない」原作のせい。


むしろ、ハナから謎でも何でもないショボイ失踪事件を、いくつかの改変とエピソードの刈り込みで焦点を絞り、最後まで緊張の糸が途切れずに惹き付ける。オリジナル版と全く同じ構図である暴力描写や性描写も、その場で目撃しているような緊迫感に思わず息を飲む。確か40名ほどいたと思われる一族を全員登場させると、相関関係だけで混乱し収拾がつかなくなるため数人しか出てこない。ハリエットの死によって、大きな犠牲を払う人生を選択した一族の女性も関わらない。


映画は完璧。どうしても原作と比較してしまう不満点は、ミカエルがヴァンゲル一族の真の闇を突きつけられ、ジャーナリストとしての使命と倫理観に苦悩する場面がないこと。後は、リスベットのキャラクター。他人の感情を意に介さず、干渉を拒絶する徹底的な一匹狼の彼女が、他人を気遣い傷つく共感を得るキャラクターになってしまった。元後見人を見舞う場面やエンディングなど、状況は同じでも受ける印象がまるで違う。ミカエルを認めていても友人ではないし、自分の過去を話したりなどしない。


正統派美人のルーニー・マーラはやはり甘いと思う。メガネを外したら美人になる少女マンガみたいな感覚。破滅的な狂気の匂いがしない。オリジナル版のノオミ・ラパス(今度のシャーロックホームズに出演) のクセのある顔は良かった。同じく原作では「名探偵カッレくん」と冷やかされる人気者ミカエルも、印象の違うキャラクターになっているけどこちらは大成功。強い意思と信念を感じさせる大人の男ダニエル・クレイグが、深く隙なく厚くこってりと5割増しの魅力で惚れ惚れする。続編の2作目と3作目では、リスベットの過去を清算する血みどろの死闘と、彼女をサポートするミカエル率いる正義の集団“狂卓の騎士”の反撃が描かれる。


ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 (上) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 (下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女 (下) (ハヤカワ・ミステリ文庫)


■『ペントハウス』-Tower Heist- ★★★

■『ロボジー』 ★★★★


[ストーリー] 白物家電メーカー「木村電器」のワンマン社長(小野武彦) の命により、寄せ集められた専門外の社員3人(濱田岳、Wエンジン川合正悟川島潤哉) は、企業広告を目的とした二足歩行のロボットの開発に苦心していた。そしてロボット博が一週間後に迫ったある日、かろうじてロボットの体裁を成した「ニュー潮風」を大破させてしまう。苦肉の作でロボットの着ぐるみ作戦を思いつき、詳細を隠しオーディションを行った彼らが選んだのは、73歳の鈴木重光(五十嵐信次郎/ミッキー・カーチス) だった。ロボット博でのアクシデントにより、大きな反響を得たニュー潮風は、各地のイベントに引っ張りだことなり、3人は引くに引けなくなってしまう。好き勝手に行動する鈴木に振り回され、ニュー潮風に恋したロボットオタクの女子大生・葉子(吉高由里子) にヒヤヒヤする3人だったが・・・。矢口史靖監督、111分


[コメント] ロボジー鈴木サイコー。まさに制御不能!! 哀愁のヴィジュアルが絶妙のニュー潮風、我侭で頑固だが偏屈ではない鈴木ジイさん、ばか正直で努力家のエンジニア3人、最強の天然キャラが問答無用でキュートな吉高由里子、ほどよい距離で鈴木ジイさんを見守る娘一家(和久井映見田辺誠一、娘、息子)。予定調和のファンタジーと笑いの完璧なバランス、善良な感情が人の心を動かす場面にグッとくる。台詞で説明しない控え目な演出と、無理にお涙ちょうだいの大仰な話に持っていかないところがいい。鈴木ジイさん、腰が痛いどころか若者並の反射神経で大活躍。日産工場での場面に大受け。ジジイ死んでるよ!! 若者の巣立ちをそっと後押しするクライマックスが温かい。


■『フライトナイト/恐怖の夜』-Fright Night- ★★★


[ストーリー] ラスベガス郊外の新興住宅地で母親(「シックス・センス」のお母さん) と暮らす、さえない高校生チャーリー・ブリュースター(アントン・イェルチン) 。学園アイドルの美少女エイミー(イモージェン・プーツ) の恋人となり、一目置かれる存在となったチャーリーは、オタク友達たちと距離を置いていたが、エド(「キック・アス」のレッド・ミスト) から、チャーリーの隣家に引っ越して来たジェリー(コリン・ファレル) は、ヴァンパイアだと警告される。


クラスメイトの欠席者が増えている事に不安を覚えたチャーリーは、ジェリーの留守中に彼の家を探り、その正体を確信する。すぐさまラスベガスで興行中の人気オカルト番組「フライトナイト」の現場を訪ね、ヴァンパイア・キラーの異名を持つ男、ピーター・ヴィンセント(デイヴィッド・テナント) に協力を求めるが、番組はインチキで相手にされない。正体に気付いた事をジェリーに悟られてしまったチャーリーは、1人で母親とエイミーを守ろうと決意するが・・・。クレイグ・ギレスピー監督、106分。


[コメント] 1985年のオリジナルは未見。段階を踏んだ状況説明などは見事にすっ飛ばして、既に美少女と恋人同士、唐突に友人がヴァンパイアと警告、あっさりヴァンパイアと判明、堂々と吸血現場目撃、この突飛な話を簡単に信じてもらえる、という省エネモードで上映時間を短縮。苦悩なし、焦らしなし、詳細なし!! 暴力、血しぶき、派手な爆発シーンは惜しみなく!!


お高くとまった色白のヴァンパイアのイメージからはほど遠い、ジェリーのキャラクターが新鮮。ランニング一丁の筋肉モリモリのワイルド野郎で 、危険な色気をバリバリ放出。この男が4百年も生きてきたわりにかなりのアホ!! 正体を知られたも何も、やる事がいちいち派手でとにかく目立つ。若く美しい娘からほんの間に合わせのオッサン(オリジナル版のヴィンセント)まで、いちいちカメラ目線でガブリガブリと喉に食らいつき爆飲み!! のたうち回りながら、某不動産会社を絶賛宣伝していた場面が最高にウケた。


さえないのはオタク友達だけで、さすが学園のアイドルが惚れるオタク主人公チャーリーは、こざっぱりした草食系イケメン。彼はピープル誌で「最も美しい100人」に選出されているそうだ。それほどか? と思う程度に庶民的で一途なキャラクターと、嫌味のないヒロインのエイミー(「28週後…」の超絶美少女) の若いカップルが爽やか。ヴァンパイアスレイヤー・ヴィンセントも面白いキャラクター。よくあるヴァンパイア映画とは違う仲間の増やし方をする「地中海系ヴァンパイア」の設定は、惜しくも不完全燃焼。ジェリーは建て売り住宅に引っ越したばかりのはずなのだが、クローゼットの奥の空間が謎だらけ。広い地下室の基礎工事もどうなってるのか滅茶苦茶だ。