3月鑑賞の映画感想

■『わたしを離さないで』-Never Let Me Go- ★★★★★


1978年、英国。外界から隔絶された田園地帯に佇む寄宿学校ヘールシャム。ここで学ぶ子どもたちに親族が訪ねる事はない。少年少女たちは厳格な規律で管理され、詩や絵の創作活動に励みながら、普通の人たちとは違う“特別な子ども”として育てられる。


18歳になりヘールシャムを出たキャシー(キャリー・マリガン) は、幼い頃から思いを寄せるトミー(アンドリュー・ガーフィールド)や、親友のルース(キーラ・ナイトレイ)、他の学校から来た者たちと共に、農場のコテージで共同生活を始める。初めて接する外に世界に戸惑いながらも、新鮮な驚きに満ちた日々。平凡な日常の中で僅かな希望を繋ぐ彼らに、定められた運命の時に近づいていた・・・。カズオ・イシグロ原作、マーク・ロマネク監督


予告を観てしまえばヘールシャムの目的は分かってしまうのだけど、本編でも前半であっさりはっきり明かされる。サスペンス好きとしちゃーもうチョイ引っ張って欲しいが、マイケル・ベイの某大作映画と同じSFな設定ながら、原作脚本監督俳優でここまで深い作品になるのかと驚く。詩情に満ちた別世界で純粋培養され、大人に成長した3人(+2人) の、社会的に未熟で真正面から人と接し傷つく姿が心をかき乱す。子どものように無防備でありながら、過酷な運命を静かに全うする強靭な心が最後まで惹き付ける。子役の3人が上手い。成長してからは、キャリー・マリガンに比べて他の2人が大幅に見劣りする。大丈夫なのか、新生スパイダーマン


■『悪魔を見た』 -I SAW THE DEVIL- ★★★★


国家情報院の捜査官スヒョン(イ・ビョンホン) の婚約者が、バラバラ死体となって発見される。類似事件の容疑者4名の情報を入手したスヒョンは、警察の先手を打って調べ上げ、塾の送迎バスの運転手ギョンチョル(チェ・ミンシク) が犯人だと突き止める。婚約者が受けた倍の苦しみを与えると誓うスヒョンは、ギョンチョルの尾行を開始するが・・・。キム・ジウン監督、144分


すぐに犯人を特定し、かなり早い時間に広大なビニールハウスの中でビョンホンと犯人が対峙。ところが猟奇殺人鬼をキャッチ&リリースするという、思いも寄らない展開を見せるのだ。ハイテク装置は無理があるし、警察も出し抜かれすぎなんだが、生々しい欲望に従うギョンチョルの方が理解できると思えるほどに、ビョンホンの妄執により被害者も3割増し。血で血を洗いまくる壮絶な暴力場面が続く。


もはや、亡き婚約者や新たな被害者などそっちのけ。韓国は連続殺人犯だらけか!! とツッコミたくなる「フレディVSジェイソン」みたいな悪役同士の対決や結託もあって、144分の尺を感じさせず最後まで緊張感が持続。理不尽な犯罪の被害者側の視点になりがちな設定が、人間の残虐性が行き着いたその先までを描く。「杜子春」を絶望に変えた救いのなさも好きだ。


“目玉に溜め泣き”が大仰で、風呂にも入れないような状況でも一糸乱れないビョンホンは、格闘場面で説得力があり傲慢な役が良く似合う。画一化した女優たちはマネキンのよう。後々まで引き合いに出されるような深いキャラクターではなかったけど、レクター博士の対極にあるような泥臭いチェ・ミンシクの殺人鬼像は完璧。周到ではないが愚か者でもなく、ある種の嗜好の人以外が劇場で観る事は極めて稀ではないかと思われる、あまりにもリアルな“あるモノ”に手を突っ込む姿が強烈。