4月鑑賞の映画

■『ウルフマン』-The Wolfman - ★★


1891年、英国。兄の行方不明の知らせを受けた、人気舞台俳優のローレンス・タルボット(ベニチオ・デル・トロ) は、25年前の母親の自死を機に疎遠だった父親ジョン(アンソニー・ホプキンス) の暮らすブラックムーアへ帰郷する。無惨に切り刻まれた兄の遺体に対面したローレンスは、兄の婚約者グエン(エミリー・プラント) に真相究明を約束、ジョンの制止を無視して満月の夜に外出して獣の襲撃に遭い深手を負う。ロンドン警視庁のアバライン警部(ヒューゴ・ウィーヴィング) の聴取を受けるローレンスは、自身の肉体の変調に気づくが…。


“太古の昔、人間は月と恐ろしい約束を交わしてしまった――”という、何かやってくれそうな宣伝は物語と一切関係なし。ベニチオ・デル・トロアンソニー・ホプキンスの激マジなキャスティングで、一級モンスター映画になりそうな期待も膨らんだが、人間ドラマよりスプラッタ重視のちぐはぐな展開。なにより狼男へ変身を遂げた瞬間に口あんぐり。「アンダーワールド」のようなキレのいい獣ではなく、お化け屋敷の中身は人間ですみたいな鈍い風貌の熊男。狼じゃなくて、熊。目にも止まらぬ速さで、腕を引きちぎり首チョンパし腸を撒き散らすが、顔が熊。顔がギャグ。むしろ素顔で押し通した方が良かった。デル・トロが上手すぎて、二本足で疾走するマヌケな熊男との落差に失笑必至。熊男を別にしても、父親も、兄の婚約者も、警部も、当の本人すら何をしたいのかの迷走し、親子の愛憎と暗黒部分をサラ〜ッと流して終わり。


■『アリス・イン・ワンダーランド 3D字幕版』-Alice in Wonderland- ★★★★


ワンダーランドでの冒険の記憶を失くし、19歳に成長したアリス(ミア・ワシコウスカ) は、周囲の期待に応えて貴族との結婚をすべきか決断できず、洋服を着た白ウサギを追って穴へ落ち、再び地下世界へ迷い込む。そこは、国民の信望厚い白の女王(アン・ハサウェイ) を失脚させた、独裁者の赤の女王(ヘレナ・ボナム・カーター) が支配する、“アンダーランド”と呼ばれるあのワンダーランドだった。彼女の再訪を待ち続けていたマッド・ハッター(ジョニー・デップ) や自由のない者たちは、アリスが預言書に描かれた救世主だと信じるが・・・。


双子のトゥイードルダムとトゥイードルディの歩く姿が激しくツボ。いや〜、3Dすげえ。って、見所はそこか。果てしない穴を駆け落ちる場面は、これが3Dじゃ〜、観ろー!! みたいな。赤の女王のパイを盗み食いしたカエルが震える姿が可笑しくて好き。チェシャ猫(声:スティーヴン・フライ) は甘渋い声が素敵。厳しい制限のある中でチョイ毒を盛り込んで楽しい。アン・ハサウェイのどデカ唇が強烈で、天然の腹黒さが柔和な美貌で目くらましとなり男は騙されるんだよなー、目を覚ませ!! 誰が? 3Dは凄いけど映画は2Dでいいじゃんと思う。


■『ハート・ロッカー』-The Hurt Locker- ★★★★★


2004年夏、イラクバグダッド郊外。トンプソン軍曹(ガイ・ピアース) の代わりに、爆発物処理に従事する特殊部隊EODの新リーダーとしてジェームズ2等軍曹(ジェレミー・レナー) が赴任してくる。補佐役となるサンポーン軍曹(アンソニー・マッキー) とエルドリッジ技術兵(ブライアン・ジェラティ) は、彼のスタンドプレイで慎重さを欠く解体作業に愕然とする。ブラボー中隊の任務完了まで38日と迫る中、ジェームズのやり方に我慢の限界を越えたサンボーンとエルドリッジは、これまで以上の危険にさらされるストレスに神経を擦り減らす。第82回アカデミー賞で作品賞以下6部門を受賞。


冒頭から結末までほぼ危険地帯で、銃の撃ち合いとは違う肉体損壊という皮膚感覚の恐怖に、肩がカチンコチンに強張って疲労困憊。壮絶な映像は少ないので観賞しやすいと思うけど、予告を観ていなかったので、芋蔓式に爆弾が出てくる場面では背筋もカチンコチンに凍る緊迫感。本気で血の気が引いた。チームが絆で結ばれるきっかけとなる待機の場面がすごく良くてがっつり心を鷲掴み。描かれていない無数の悲劇に思いを巡らせ、無線のヘッドフォンを外し、自由の利かない防爆スーツすら脱いでしまうジェームズの閉塞感が伝わってくる。873個もの爆弾を処理した実績を上官に賞讃され、そのコツは「死なないことです」とうそぶく彼の心の均衡が崩れた時、あまりの無茶ぶりにスクリーンに向かって心の中でバカバカバカバカ、バカかお前は!! と胃がキリキリ。冒頭の言葉「戦争での高揚感はときに激しい中毒となる」。戦場でしか生きている実感のない男が、コーンフレークに悩む日常に戻れるわけがない。


■『ダレン・シャン (日本語吹替え版)』-Cirque Du Freak: The Vampire's Assistant- ★


成績優秀で人気者のダレン・シャン(声:山本裕典/クリス・マッソグリア) は、バンパイアに憧れる粗暴な親友スティーブ(浪川大輔/ジョシュ・ハッチャーソン) に誘われ、2mを越す大男のトール座長(渡辺謙) の奇怪なサーカス“シルク・ド・フリーク”を見に行く。刺激的なショーの中で世界一美しい毒グモに心を奪われたダレンは、楽屋へ忍び込み思わず盗み出してしまうが、噛まれたスティーブが昏睡状態となり、解毒剤と引き換えに、人間との共存を望むバンパイアのクレプスリー(内田直也/ジョン・C・ライリー) と取引し、彼の弟子として昼の活動ができるハーフ・バンパイアとなる。一方、真相を知り嫉妬にかられるスティーブは、運命を操る力を持つ謎のハゲデブ、ミスター・タイニーの口車に乗り、クレプスリーと敵対する悪のバンパイア集団“バンパニーズ”の一員となる・・・。


選択の余地がなく吹替え版で鑑賞。サルマ・ハエックがその辺のド素人に見えてしまうほど、LiLicoの吹替えが壊滅的に酷い。カスピアン王子の悪夢再びとばかりに能面演技の主人公、パッとしないヒロイン、チンチクリンの親友が定石通りに空回りし、頭を抱えたくなるほど内容が軽く薄い。ていうか、内容がないよう。オヤジか。個性的で面白いサーカスの団員と、影絵のようなタイトルバックに★1つ献上。


■『第9地区』-District 9- ★★★★★


1982年、南アフリカヨハネスブルグ上空に突如現れた正体不明の巨大宇宙船。人類への侵略か友好の意思表示もなく、静かに浮かび続ける宇宙船にしびれを切らした南ア政府は偵察隊を派遣、そこで見たものは、故障した宇宙船の中で衰弱し身を寄せ合う150万人ものエイリアンだった。仕方なく彼らを難民として受け入れてから28年後、地域住人との争いが絶えず、野蛮で猫缶に目がないエイリアンたちは、海底を漁る者“エビ”と嘲弄され、武力監視された人類との共同居住区“第9地区”はスラムと化す。超国家機関MNUは彼らをエイリアン専住地区“第10地区”へ強制排除すべく、エイリアン対策課のヴィカス(シャールト・コプリー) を現場責任者とし、抵抗した場合に対処する冷酷なクーバス大佐(デヴィッド・ジェームズ) 率いる傭兵部隊を送り込む・・・。


凄まじい性能のパワードスーツと、猫缶100缶を交換してしまうエイリアンの嬉しそうなこと。カルカン、エビまっしぐら!! 予告でモザイクが掛かっていたエイリアンの姿は、着ぐるみ不可のムギュ〜ッと細いウエストに、口元のモシャモシャが忙しなく動いている目の離れたバルタン星人顔で、見慣れてくると案外カワイイ。どういうワケか、エイリアン語を話す彼らとヴィカスの英語で会話が成立してる。関係者のインタビューを交えたモキュメンタリー調のインチキくさい冒頭から一転、様々な映画の要素をごった煮にしたどこかで観た内容ながら、圧倒的なリアリティで理不尽な現実を突きつける力技が凄い。アイデンティティーの喪失と他者に人生を強要される無力感に成す術はなく、すっかりエビに肩入れしてしまうクライマックスでがっつりカタルシスを味わう。「アバター」と似た展開だけど、こちらは暴力的な描写とエビのヴィジュアルにストライクゾーンは狭そう。これから鑑賞する人は、最初の方の場面のゴミ山で“あるもの”を作っているエイリアンを見逃さぬように。


■『マイレージ、マイライフ』-Up in the Air- ★★★★


飛行機で全米各地を飛び回り、企業のリストラ対象者に解雇を言い渡す“リストラ宣告人”ライアン・ビンガム(ジョージ・クルーニー) は、年間322日を出張に費やし、密かな目標としてきた史上7人目となる1000万マイレージの獲得まであと少し。結婚願望はなく、“バックパックに入らない人生の荷物は背負わない”をモットーに、簡素な自宅には歯ブラシすら置いていない。他者と深く関わらず面倒を避けて生きてきたライアンは、同じ価値観を持つ出張の多いアレックス(ヴェラ・ファーミガ) と出会い、気楽な大人の関係を続けるが、出張廃止を掲げる頭でっかちな新入社員ナタリー(アナ・ケンドリック) の出現により、迷う事のなかった生き方を見つめ直していく・・・。


マイレージを貯めるだけが生き甲斐の、変わり者のビジネスマンかと思いきや、仕事は完璧で、新人を丁寧にフォローし、距離を置いていた家族のために力を尽くし、笑いを取れる講演を各地でこなす、広い人脈を持つ頼れる大人の男。できすぎ、カッコよすぎ、この人生に問題なさすぎ。芸術的なパッキングと手荷物検査を華麗に通過するジョージ兄キのカッコイイこと!! 惚れ惚れするぜコンチクショーだ。機上とホテルが家のような生活にありながら、心身ともに健康、腹は引き締まり、ハゲてもいないし、間違いなく靴下も臭くない。バリキャリ美人もホイホイついてくる。この全然フツーのビジネスマンじゃない男を共感させ、しがらみで身動きが取れない現代人が憧れる人生を、チョイ寂しさとともに軽やかに描く。自由な人生の光は眩いばかりで、その影となる寂寥に佇む姿もまた力強い。単身者の孤独は切ないが、既婚者の孤独はより深刻なのだ。


■『シャッターアイランド (超日本語吹替え版)』-Shutter Island- ★★★★


精神を患った犯罪者だけを収容するボストン沖合の孤島“シャッター・アイランド”。1954年9月、鍵の掛かった部屋からレイチェル(エミリー・モーティマー) という女性患者が忽然と姿を消した。自ら捜査を志願した連邦保安官のテディ(レオナルド・ディカプリオ) と、新たな相棒チャック(マーク・ラファロ) は、病院のコーリー医長(ベン・キングズレー) やネーリング医師(マックス・フォン・シドー) に不信感を抱き、この病院が隠している何かを感じ取る。レイチェルが部屋に隠した謎の数字、テディのノートに「逃げろ」と記す患者、立ち入りを許されない凶悪犯罪者専用の特別棟…、嵐に閉じ込められた島で、放火で亡くした最愛の妻ドロレス(ミシェル・ウィリアムズ) の幻覚がテディの心をかき乱し、やがて現実と妄想との境を彷徨い始める・・・。


映画が始まる直前に「謎を解く鍵」をアドバイスしてくる念の入れようで、バカみたいに謎解きミステリーを強制する宣伝は放っといて、「それ以外のもの」で見応え充分。斧でカチ割ったような眉間のシワが芝居くさいディカプリオは、テディのイメージと違う。超日本語版で観たけど、字幕版でも良かったかも。真逆の解釈ができるラストの余韻が深い。


■『シャーロック・ホームズ』-Sherlock Holmes- ★★★☆


19世紀末のロンドン。黒魔術の儀式を用いて若い女性を狙う連続殺人事件が発生。探偵のシャーロック・ホームズ(ロバート・ダウニー・Jr) と相棒で医師のワトソン(ジュード・ロウ) は、ロンドン警視庁(スコットランド・ヤード) に先んじて事件を解決。絞首刑を控えた犯人のブラックウッド卿(マーク・ストロング) は、ホームズが止める事のできないこれから続く3人の犠牲者と、自身の復活を仄めかす。ブラックウッド卿が墓から甦ったとの報せと時を同じくして、ホームズは事件にある秘密組織が関わっている事を知るが・・・。


ホームズの天才的な観察眼とか卓越した推理力とか、そういう推理や謎解きの要素は全部すっ飛ばし、種明かしもチャチャッと簡潔に済ませて、どんでん返しとか皆無。鍛え上げた肉体で闘うホームズのアクション重視の派手な演出で、2時間15分の長さを感じさせない。ジュード・ロウが巧い。そして、死ぬだろフツー? の場面にも不死身で脅威の回復力。それに比べ、敵役のマーク・ストロングが超ショボイ。別にシャーロック・ホームズじゃなくても良かったのにと思ったけど、サクッと登場したモリアーティ教授に期待をもたせるエンディング。


■『コララインとボタンの魔女 3D (日本語吹替え版)』-Coraline- ★★★★☆


庭園評論家の両親とともに、古い一軒家に引っ越して来た少女コラライン(声/榮倉奈々) 。イライラしてばかりのママ(声:アンパンマン) や、辛気くさいパパにも構ってもらえず不満を募らせていたコララインは、ある夜、封印された小さな扉を発見する。通路の向こう側は現実の世界とそっくりだったが、そこにいたのはボタンの目をした人たちだった。優しく料理好きなママと陽気なパパ、言葉を話す黒猫(劇団ひとり) など、この世界の住人に魅了されたコララインは、警告を無視して再び扉をくぐり抜けるが・・・。


歪んだダークな世界観と残酷な代償、強烈なキャラクターの双子の婆さんのキツいジョーク、隅から隅まで作り込んである芸術的なセットに大興奮。人形が完成するまでを見せるオープニングが秀逸。縫い針がツーンと目の前に飛び出してきたりもするけど、オープニング以外では3Dを意識するような感じではなく、自然で違和感がなかった。


■『パーシー・ジャクソンとオリンポスの神々』-Percy Jackson & the Olympians: The Lightning Thief - ★★☆


天上の最高神ゼウス(ショーン・ビーン) が、海の神ポセイドン(ケヴィン・マクキッド) をエンパイア・ステートビルに呼び出す。観光客かよ!! ゼウスの最強の武器“雷撃”を彼の息子が盗み出したと聞く耳持たずのブチギレで、2週間後の夏至までに戻さなければ、オリンポスの神々が決裂し地上は戦場となるだろう、と言い放つ。


父親を知らずに育った17歳のパーシー・ジャクソン(ローガン・ラーマン) は、落ちこぼれの転校生。突如、代理教師の婆さんが怪鳥へ変身してパーシーに襲いかかり、彼の守護者で半分ヤギのグローバー(ブランドン・T・ジャクソン) と、半人半馬のブルナー先生(ピアース・ブロスナン) が追い払う。パーシーはポセイドンの息子で、ギリシャ神話の神々と人間とのハーフ“デミゴッド”だと言うのだ。雷撃を見つけ出して濡れ衣を晴らすためパーシーはデミゴッド訓練所へ入るが、冥界に囚われた母親サリーを救い出すため、アテナの娘アナベス(アレクサンドラ・ダダリオ)や 、グローバーとともに旅に出る・・・。


ちょっと調べればすぐに分かるものを、全能の神のその目は節穴か!! そんでもって、ゼウスルールで息子と会う事を許していないポセイドンに言ってどうすんだ。有名な観光地が異世界と通じている辺りが「ナショナル・トレジャー」のようなご近所感で楽しい。隣のお兄ちゃん的な凡人スタートから、特別な力を持つ者たちの中でもより特別な存在となり水を操る主人公、ズッコケ担当と思いきやそうでもない守護者ヤギ男、ビミョーな美人で優等生の男女3人組が、アメリカ横断のミッションをチョチョイとクリア。要所要所のエピソードを押さえるだけで手一杯で粗いけど、時間をかけても面白さのレベルは変わらない気がする。「ジャーニーマン」のケヴィン・マクキッドが、マジンガーZの如く海をかき分けて登場する場面が素敵。