1月の読書感想

■『ラブリー・ボーン』 -The Lovely Bones- アリス・シーボルト アーティストハウス 2003年5月 ★★★
私の名前はスージー・サーモン。1973年12月6日、学校からの帰りにトウモロコシ畑を横切って近道した私は、近所に住むミスター・ハーヴェイに呼び止められ、14才で殺された。これは、私が天国へ行ってからの物語――。


その3日後、スージーは何でも願いが実現する場所、天国へ辿り着く。ただ、生き返る事と、地上の人たちへ思いを伝える事だけは叶わない。始まったばかりだった初恋、野生生物の写真家となる夢、無害な変わり者を装う犯人と言葉を交わす父親の姿…、スージーは遥か上空から眺めるように、地上で優しく寄り添うように、時には知らずにいたかった愛する家族の姿を見守り続ける。


スージーの身体の一部が発見された事で、死を受け入れざるを得なくなった家族は、表面的に日常を取り戻していたが、確かに感じる犯人への確信が父親の心を捉えて離さず、耐えきれなくなった母親は心を閉ざし、秀才の妹リンジーや、4才の弟バックリーは、姉の死によって他の子どもとは違う存在となってしまう。自分の死をきっかけにして、ゆっくりと崩壊していく家族へ、スージーは届かないと知りながら声をかけ続ける。やがて、スージーの死の真相を知らせる“痕跡”が少しずつ見つかるが…。


・・・というあらすじから、この世に未練が残り天国の入り口で足止めしているスージーが、ちゃっかりご近所に溶け込んでる変態野郎の正体と、愛する家族に迫る危機を救うために必死にメッセージを送り、犯人を見つける事に人生を費やす父親によって家庭は崩壊、エキゾチックな初恋相手のレイ、霊感の強い同級生ルース、感受性の強いバックリーらが微かな“心の引っかかり”のピースを繋ぎ合わせ、変態野郎には正義の鉄槌が脳天ブチかまして地獄へ強制連行、「ゴースト」ばりの“奇跡”がスージーと家族をひととき繋ぎ、残された者たちの心を癒し、スージーは光の向こう側へ行く物語・・・と、思いきや、ことごとく違う。ていうか全然ちがう!!


犯人への執着のあまり自分を見失う父親、まっすぐな心のまま天国で内面が成長していくスージー、大人の判断力があり勇敢で思慮深いリンジー、キテレツでタフなお祖母ちゃんなど魅力的なキャラクターたちが、心地よい予定調和な流れから90度くらい違う方向の行動に出て、いちいちフラストレーションでイライラ、ムキー!! 印籠を出さない水戸黄門、桜吹雪を見せない金さん、悪人を成敗しない暴れん坊将軍という感じ。ホントか。


少女の心と命と肉体の3度殺す変態野郎は、このテの犯罪ではありきたりの背景をさらっと流す程度で出番も少なく、伏線と思われた数々のキーワードは完全放置、事件を追い続ける刑事も本筋ではほとんど絡まず、なによりサスペンスが展開しない。そして訪れる“奇跡”の使い方が衝撃的。14才のスージーの望む事と、殺された事のない日本人四十路女がやって欲しい事がかけ離れていて、そんな事してる場合か!! と驚愕。一に両親で、二に犯人だろうが。着地点は予想通りでも、大団円のエンディングの心境は複雑。中盤まではかなり面白いが、後半はガタ落ち。購入無用、図書館で。2010年1月末映画公開。