2月鑑賞の映画感想

■『ウォール・ストリート』 -Wall Street: Money Never Sleeps- ★★


[ウォール街あらすじ]
証券会社に勤める野心家の青年バド・フォックス(チャーリー・シーン) は、ウォール街のカリスマ投資家ゴードン・ゲッコー(マイケル・ダグラス) に憧れ、父親(本当にお父さんのマーティン・シーン) が働く航空会社の重要事実を教えて、彼に取り入る事に成功。精力的なゲッコーに魅せられ職務を逸脱し、キャリア、高層住宅、極上の女、全ての夢が叶う環境に飲み込まれていく。ゲッコーの冷酷非情を前に、見失った自分を取り戻したバドは彼を裏切り逮捕されるが、正義を果たすべく証券取引委員会に協力し、不法取引の証拠を押さえる。強欲オーラをギラギラ放つ生肉食系マイケル・ダグラスの筋の通った嫌な野郎ぶりが見事で、チャーリー・シーンが逮捕連行されるシーンではギュッと切なくさせた。(1987年公開、オリバー・ストーン監督)


[ウォール・ストリートあらすじ]
ウォール街のかつての帝王ゴードン・ゲッコー(マイケル・ダグラス) が、8年の服役を終えて出所する。それから7年後、エリート青年ジェイコブ・ムーア(シャイア・ラブーフ) は、非営利ニュースサイトを運営するゴードンの娘ウィニー(キャリー・マリガン) と交際していた。彼女は父親を憎み連絡を絶っていたが、ジェイコブは金融危機を予見する、ウォール街の“伝説”ゴードンに興味を抱く。ある日、金融界の大物ブレトン(ジョシュ・ブローリン) の策略によりジェイコブの勤める投資銀行が経営破綻する。父親同然だった経営者の復讐を決意したジェイコブは、ウィニーとの関係修復と引きかえにゴードンに情報を求めるが・・・。133分、オリバー・ストーン監督


思わず懐かしくなる「どデカイ携帯電話」を手にゲッコーが出所する場面から、金融界の老獪なジジイたちの裏劇場までの前半は良かった。若いカップルの感傷で話が緩くなり、虚実の頭脳戦はなく終始曖昧な展開。恩師へ義理を果たそうとする庶民派の良識を見せる主人公は、大金を失っても気に病まず、経営破綻にも失職することなく多額の報酬で転職する。金欲に麻痺し無心してくる母親には、手に職があるにも関わらず大金を貸してしまう。全てを失ったと思わせる状況にも関わらず、凡人には共感のしようがない。常に自分を正当化し、正義感をゴリ押しして、結局は相手が折れるのを繰り返す。ある分野の博士への投資に熱心なのはいいが、他人の大金で熱烈支援する前に、まず自分の百万ドルを使えと言いたい。イーライ・ウォラックの鳥のさえずりのジェスチャーが激しくツボ。お父さんに諭されたのに金欲人間になってるバド(チャーリー・シーン) がカメオ出演


■『ヒア アフター』 -Hereafter- ★★★


かつて霊能力者として活躍した、サンフランシスコ在住のジョージ(マット・デイモン) は、死者と対話する人生に疲れ、自らの能力を“呪い”だと嫌悪し封印していた。平凡な暮らしを望み料理教室へ通うが、そこで出会ったメラニー(ブライス・ダラス・ハワード) とも上手くいかず、肉体労働の仕事もリストラにあう。


東南アジアでのバカンス中に津波にのまれ、一時呼吸停止したフランス人ジャーナリストのマリー(セシル・ドゥ・フランス) は、その時の臨死体験で見たヴィジョンを忘れる事が出来ず、仕事と恋人を失う。双子の兄を突然の事故で亡くした英国人の少年マーカス(マクラレン兄弟) は、悲しみから立ち直れずに心を閉ざす。そして、もう1度兄と話したいと切望し、霊能力者を捜し求めていた。運命に導かれるように、彼らはそれぞれの事情でロンドンへ向かうが・・・。クリント・イーストウッド監督、129分


ジョージの能力がホンモノすぎるけど、フィクション承知の安っぽいドラマにならない静かな演出が淡々と続く。愛する人を残して先に逝く者にも、残された者にも救いになる。とはいえ、霊能力者じゃなくても良かったんじゃないかと思う。結局は、「めぐり逢えたら」かよ!! みたいな。唐突なクライマックスに驚いて、そこで終わりな事に2度びっくり。ジョージがディケンズ記念館で見せる控え目なオタクぶりと、ロンドンのブックフェアの朗読会で、控え目に興奮する姿が楽しかった。


■『ザ・タウン』 -The Town- ★★★☆


全米屈指の強盗が多発する街、ボストンの北東部にあるチャールズタウン。親から子へ犯罪が受け継がれていく“タウン”と呼ばれるこの街で生まれ育った、強盗団のリーダーのダグ(ベン・アフレック) 、ジェム(ジェレミー・レナー) 、デブ、色白ヒョロリの4人の幼なじみ。怪我人を出さず、証拠を一切残さない周到な計画で、いつも通り襲撃した銀行で不測の事態が起こり、女性支店長クレア(レベッカ・ホール) を人質にして逃走を図る。しかし、解放したクレアがタウンの住人だと知り、ジェムは口を封じようとするが、ダグは彼女の記憶を確かめるために、偶然を装い近づく。


過去に唯一のチャンスを逃し“家業”を継いだダグは、タウンの外から来たクレアとの平穏な日々に心安らぎ、彼女との新しい人生を切望する。しかし、兄弟同然に育ったジェムや、強盗団の元締めのジジイ(ピート・ポスルスウェイト) は、ダグがタウンを出ることを許さず、シングルマザーのジェムの妹(「ゴシップガール」のセリーナ) もダグを想い続けている。クレアと会いながらも次の襲撃の計画を進める中、彼らの逮捕に執念を燃やすFBI捜査官フローリー(マッドメンの人) の捜査の手が迫る。ダグは最後の仕事としてスタジアムの莫大な売上金を狙うが・・・。「強盗こそ、われらが宿命」チャック・ホーガン原作、ベン・アフレック監督、125分


1) 強盗が多発する街の銀行支店長が若い女 2) 脇役となると途端にマヌケになり出し抜かれるFBI 3) 銀行と現金輸送車に限っていた強盗団がスタジアムを襲撃、そもそも支店長を人質にする理由が弱いという無理矢理な状況はいいとしても、アホヅラ演技のベン・アフレックは、監督だけにしておけば良かったのにと思う。死神博士のような元締めジジイや、服役中のダグの父親(クリス・クーパー) の陰影は深く、命を預け合う絆で結ばれた、この街でしか生きられない者たちの宿命は切なさを誘う。「ハート・ロッカー」のジェレミー・レナーは、観客の心をグッと掴む役どころ。強盗に使う尼さんのマスクをつけたままの、裏通りのカーチェイスも迫力。幾度となく映画で描かれてきた、組織を抜けようとする者の末路は、蜂の巣にされて死ぬか、魂の抜け殻となる破滅的な王道パターンの方が好きだ。「エイリアス」のシドニー父ちゃんが、出て1秒でボコられる行員役でチョイ出演。


■『RED/レッド』-Red- ★★


オハイオの田舎町で静かな引退生活を送っていたフランク・モーゼズ(ブルース・ウィリス) は 、CIAが“RED/Retired Extremely Dangerous(引退した超危険人物)”として警戒する、超極秘任務専門の元エージェント。家族はおらず、カンザスシティのコールセンターへ電話を掛けては、互いに顔も知らない年金課のサラ(メアリー・ルイーズ・パーカー) との会話を唯一の楽しみにしている。暇なジジイか!!


ある夜、暗殺部隊の急襲を受けたフランクは、通話記録からサラへ危険が及ぶと考え、彼女を連れて逃亡。かつてのグアテマラの任務が事態の謎を解く鍵だと知り、老人介護施設で余生を送る元上司モーガン・フリーマン、武器のスペシャリストのジョン・マルコヴィッチ、元MI6の狙撃の名手ヘレン・ミレンに協力を仰ぐ。ロベルト・シュヴェンケ監督、111分


一般人女性のサラが足手まといにならず、老練の洒落た作戦も観られないが、火薬の量と弾薬の数と味方には当たらない弾は5割増し。モーガン・フリーマンは時々こういう変な映画に出るので、深みのないショボイ脚本にもそつが無い。ジョン・マルコヴィッチは危険な男が上手すぎて、映ってるだけで楽しかった。有無を言わせぬ目ヂカラでさすがの貫禄のヘレン・ミレンは、どうして出演したんだろう。


■『愛する人 -Mother & Child- ★★★


14歳で妊娠したカレン(アネット・ベニング) が、生まれた子を養子に出してから37年後。我が子を奪った母親の介護を拠り所にする孤独と空虚な日常で、カレンは名前も知らない娘へ、出す事のない手紙を書き続けていた。生まれたその日に母親に捨てられたエリザベス(ナオミ・ワッツ) は、激しい怒りに満ちた心を閉ざしながらも、その地を離れられないでいる。弁護士となり成功していたが、家族を持たず、周囲の男たちを美貌で惑わす。結婚4年目で子どものいない黒人女性ルーシー(ケリー・ワシントン) は、強く養子を望み、20歳の未婚女性が産む子を養子に迎えようとしていた。カレンの母が死に、エリザベスは妊娠したのを機に、互いに所在を知らずに生きてきた母と娘は会うことを決意するが・・・。ロドリゴ・ガルシア監督、126分


エリザベスが父親の年ほどの上司(サミュエル・L・ジャクソン) を押し倒そうが、幸せな隣人のご主人を裸でノックアウトしようが、その身重の妻の引き出しに、脱ぎたてのパンツを仕込もうが、その感情に丁寧に寄り添って描かれているのだが、無責任な決断を感動的に描くクライマックスに一気に冷めてしまう。


抗えない不運を受け入れられず不器用に生きる女たちに、振り回され右往左往し置いてきぼりを食らう男たちは、限りなく存在感が薄い。不遇の女性が苦しみの果てに辿り着いた、真の母親となる結末は甘じょっぱく感動的にまとめられ、父親は不要の母性だけの美しい世界。「絶対に見逃してはいけない1本」という触れ込みで観たけど、ホラーやスリラー好きの私のストライクゾーンからは大きく外れてた。ちなみに一般的には高評価だと思う。ところで、同じくPG-12の「愛を読むひと」ほどではないにしても、この映画を母親と小学生の娘で観ようと考えている人には、気まずくなるような性描写の場面があると警告したい。悪人役ではないデヴィッド・モース(「ダンサー・イン・ザ・ダーク」のイヤな奴) が、どう見ても悪人顔でチョイ出演。


■『デュー・デート 〜出産まであと5日!史上最悪のアメリカ横断〜』-Due Date- ★★★☆


アトランタでの仕事を終えた建築家のピーター(ロバート・ダウニー・Jr) は、待望の第一子の出産を5日後に控えた妻(ミッシェル・モナハン)の待つ、ロサンゼルス行きの飛行機へ乗り込む。ところが、搭乗の際にも迷惑を被ったイーサン(ザック・ガリフィアナキス) のせいでテロリストに間違われ、搭乗拒否リストに名前が乗る羽目になってしまう。荷物も財布もIDもなく途方に暮れるピーターの前に、事の元凶であるイーサンがレンタカーで送っていこうと持ちかける。彼は俳優志望で、愛犬サニーを連れてハリウッドへ向かおうとしていたのだ。渋々同乗させてもらうピーターだったが、行く先々で様々なトラブルに見舞われてしまう・・・。トッド・フィリップス監督、95分


1987年公開の『大災難P.T.A.』(※) とほぼ同じキャラクターと展開ながら、熊のような毛むくじゃらの半ケツ男ザック・ガリフィアナキスが、そこにいるだけで笑えるくらい魅力的。やる事成す事がいちいち深刻な事態を招き、広大なアメリカならではのトラブルもいちいち派手で滅茶苦茶。ジェイミー・フォックスの家でのベタなエピソードがサイコー笑える。飲む前どころか、煎れる時に気付くだろ。ていうか、なんで人の珈琲を勝手に使うんだ。同監督の前作『ハングオーバー! 消えた花ムコと史上最悪の二日酔い』は未見で、何度名前を読んでも覚えられそうにないザック・ガリフィアナキスは、打ち切りになった『トゥルー・コーリング』でいい味出してたモルグの所長さん。


※2日後の感謝祭までにニューヨークからシカゴの自宅へ帰りたい常識的で神経質な主人公が、粗雑で軽率だけど憎めないデブ男の引き起こすトラブルに、ひたすら耐えながらも旅を続け、最後はホロリとなる。主演のスティーヴ・マーティンと、驚くほどチョイ役で出ているケビン・ベーコンが魅力的。


■『ネスト』-The New Daughter- ★★


妻に去られた小説家のジョン・ジェームズ(ケビン・コスナー) は、14才の娘ルイーサ(「パンズ・ラビリンス」の女の子) と7才の息子サム(「チェンジリング」のアンジーの息子) と共に、小さな町の自然に囲まれた一軒家へ引っ越す。ジョンは深く傷ついた子どもたちとの新しい暮らしに努めるが、思春期の娘の言動が理解できず思い悩む。やがて、飼い猫の惨殺死体や泥だらけで帰宅する娘に困惑し、裏庭の“塚”が関係していると考えるが・・・。ルイス・ベルデホ監督、108分


暗闇の種族と戦う「ディセント」と、ケッチャムの「オフシーズン」を足したような、いかにもドラマ性の薄い一発ネタな設定は大好きで期待大。濃ゆい顔の大人の女に成長していてガッカリの「パンズ・ラビリンス」のあの娘を救うため、デビュー30周年で初ホラーに挑むショボくれたコスナーオヤジが、単身で“ネスト(巣窟)”へ乗り込む死闘を描く物語、かと思いきや、ダイジェスト版のような恐ろしく大雑把な展開。薄く浅く軽い人間ドラマと、ヤツらの襲撃の場面が一切映らないなんて、この映画の何を見ろと言うんだか怒るぞこの野郎だ。ちなみに公式サイトによれば、


《処女の肉体に飢えた魔性の群れ。
その塚こそ、“マインド・ウォーカー”と呼ばれる太古から地中で生き続ける呪われた種族の巣窟だった。》


って、誰に聞いたんだ。名前まであるのか。ていうか、蟻じゃないんだからこの繁殖方法は無理だろう。巣穴も人間社会から恐ろしく近い。家の裏だけど間違えて入っちゃいそうなくらい。しかも穴がものすごく浅い。なんだこりゃ。ぬるすぎる脚本は抜きにしても、性も根も絞り尽くされるラストは、もっと引っ張って欲しかった。「ER」のマルッチ先生が保安官役でチョイ出演。


■『キック・アス -Kick-Ass- ★★★★★


コミック好きでスーパー・ヒーローに憧れるオタク高校生デイヴ(アーロン・ジョンソン) は、インターネットで注文したコスチュームに身を包み、“キック・アス”と名乗り街へ繰り出す。何の特殊能力も近未来の武器も持たず、街の小悪党たちに叩きのめされながらも、遮二無二立ち向かう姿が動画サイトにアップされるやいなや、キック・アスの名は知れ渡り、一躍ヒーローとなる。


その頃、取引の失敗が続いていたマフィアのボス、ダミコ(マーク・ストロング) は、キック・アスが妨害していると誤解し、部下に抹殺指令を出す。全ては元警官ビッグ・ダディ(ニコラス・ケイジ) と、彼が殺し屋へと育て上げたその娘ヒット・ガール(クロエ・モレッツ) の復讐だったのだ。自らの疑問への答えを見出し引退を決めたキック・アスの前に、レッド・ミスト(クリストファー・ミンツ=プラッセ) と名乗る、派手に悪党を捕らえたヒーローが仲間になりたいと申し出るが・・・。マシュー・ヴォーン監督、117分


女子に相手にされないデイヴは、ハリー風のメガネをかけてるだけのイケメンで、ダサいコスチュームがビシッと似合う細マッチョ。カッコイイじゃないか!! このヘタレの代わりに悪党を成敗するのがヒット・ガールで、「炎の少女チャーリー」以来に見た少女の殺戮シーンが本気でカッコいい。クールに銃でナイフで容赦のない皆殺しのブチ殺し。いつの間にか車も運転してる。前は見えてるのか。細くてまっすぐな足がお人形のように長く、くしゃっと顔を歪めた時の唇も可愛すぎる。彼女が主役ではないところが面白く、主要人物たちのキャラクターの絶妙なバランスが素晴らしい。四者四様のコスチュームも楽しい。リアルでファンタジーでカッコ悪くてエキサイティング、軽いノリで切なさが際立つ。残酷なのはごく普通の人間。ニコラス・ケイジは本当にコミックが好きなんだなぁと思う。クライマックスの光のチカチカだけは勘弁して欲しい。