6月の読書感想

■『未知との遭遇 癒しとしての面接』 奥川幸子 三輪書店 1997年2月 ★★★★★
面接には想像力とパフォーマンスが必要である。老人医療の場で24年間ソーシャルワーカーとして働き、若い相談援助職のスーパーヴァイザーを務める著者が、職業としての対人援助について解説する。


対象者と援助者である自身の置かれている状況をポジショニングする明確な視点と、本人すら気づかない感情をそっとすくい上げ尊重する共感力、聴くという行為を畏怖するバランス感覚に、読んでいてとても安心する。恐るべし、スーパーヴァイザー!! 平易な言葉で事例を検証する前半は考えながら読み進め、簡潔でキレのいい後半は実勢的な内容で無駄がない。対人援助とは無縁の生活においても、どこに地雷が埋まってるかも分からない他者の歴史に目配り、心配り、想像配りする事でコミュニケーション能力を高め、円滑な関係をはかる指針となる。購入お勧め。読む時間がなければ、171〜172pを立ち読みで。


■『つみきのいえ』絵:加藤久仁生 文:平田研也 白泉社2008年10月 ★★★★★
海の上にぽっかり浮き出た家に老人がひとりで暮らしている。かつて賑わっていたこの町は徐々に水に沈んでいき、その度に老人は積み木のように部屋を増築してきたのだ。ある日、落とし物を拾うため水中に潜った老人は、かつて住んでいた部屋へと入り、亡き妻や巣立って行った娘たちと暮らした日々を思い出す。2008年にフランス・アヌシー国際アニメーションフェスティバルにて最高賞にあたるクリスタル賞、ほか多くの賞を受賞した短編アニメーション「つみきのいえ」の、加藤久仁生監督・平田研也脚本による書き下ろし絵本。


淡い水彩画の温かさがより一層切なく、平凡な老人の人生に愛しい思いが溢れ出す。後をひく余韻が秀逸。まず外さないお勧め絵本。この大きさが本棚で困らない人は購入を。


■『あっち側から見たこっち側 脳卒中実習レポート』 高崎陽子 2008年4月 ★★★★
著者は明治学院大学社会福祉学部を卒業後、一般企業を経て、在宅介護支援センターでケアマネジャーの仕事に就き、日本社会事業大学大学院へ入学。卒業を間近に控えた2006年2月に脳卒中で倒れ、福祉の経験と実績を自負していたはずが、現実に体験する身体機能の麻痺と恐怖、障害の偏見、介護する者の意識のズレを痛感。受傷した脳の障害は回復すると身を以て実証し、身体が回復しても外からは見えにくく社会復帰が困難な「高次脳機能障害(※)」の理解を深めるための活動に加わる。
※高次脳機能…記憶・認知・情緒・感情・言語を支配する機能


前半は、入学直後から続いていた仲間たちとのメーリングリストへ、近況を知らせるための脳卒中実習リポートを加筆訂正したもの。後半は、高次脳機能障害者を支援するNPO法人「ViViD(ヴィヴィ)」の設立記念セミナーの内容。少しずつ自分の身体感覚を取り戻していく過程が丁寧に綴られていて、著者の誠実な人柄が伝わってくる。介護に関係なくお勧め。購入無用、図書館で。


■『奇跡の脳』-My Stroke of Insight-ジル・ボルト・テイラー 新潮社 ★★★★ 2009年2月 
1996年12月のある朝、神経解剖学者として精力的な活動を続けていた著者は、先天性の脳の異常により脳卒中を起こす。脳卒中になる前の人生、脳卒中の朝、治療とリハビリ、左脳の機能を取り戻したその後の世界を、脳科学者ならではの視点で綴る。


一刻を争う自分の脳の状態を分析する探究心と、失ったキャリアをものともしない知性とユーモアあふれる人間性にわくわくする。なんといっても興味深かったのは肉体の異変が悪化する過程の詳細で、一般の人が抱く「脳の専門家ですら助けを求める事は出来なかったのか」という素朴な疑問を解きほぐしてくれる。13章以降は宗教観がメインになっているため飛ばし読み。脳障害の患者の家族にも、その他の身体的不自由な患者の家族にも、いまはその状況にない人たちにも、うっかり忘れてしまいそうな巻末の「最も必要だった40のこと」をしかと頭に叩き込んで、購入無用、図書館で。


■『明日に向かって捨てろ!! -BOSEの脱アーカイブ宣言-』BOSE(スチャダラパー) 双葉社 ★★★★ 2008年12月
心の隙を突き衝動買いする半端なフィギュア、過去の嗜好を再確認して手放せない漫画、壊れていない故に処分の難しい電子機器、職業上貰う機会が多いが貼る事のないステッカーなど、極める意思なく集まる大量のモノで飽和状態のBOSE氏の部屋から、同年齢の編集者男子との会話形式で、モノを捨てていこうという企画。「ほぼ日刊イトイ新聞」にて2003年から5年間の連載をまとめたもの。自宅以外に、外出篇(近所をぶらぶら)と、3件の出張篇がある(弟宅、リリー・フランキーのマネージャーBJ氏宅、漫画家しまおまほ実家)。


もう使う事もないのに、好みではないのに、集めているワケでもないのに、ふと気づけば“自宅で増殖しているモノたち”への意味不明な、でも激しく共感してしまう処分できない言い訳に、これは捨てられなくても仕方ないという方向で緩やかに進行するグズグズ感が面白い。まとめ方も上手い。「スチャダラパー」というのが皆目検討がつかないほど知らないんだが、日本を代表するヒップホップグループだそうで。説明不要でしたか、そうですか。取りあえず名前は覚えた。購入無用、図書館で。


■『あなたはなぜ値札にダマされるのか? 不合理な意思決定にひそむスウェイの法則』-SWAY- オリ・ブラフマン,ロム・ブラフマン NHK出版 2008年12月 ★★★
費やした時間やお金の損失に踏み切れず泥沼にはまる「コミットメントの法則」、最初の印象を変えられない「価値基準の法則」、下した評価に反する証拠が見えなくなる「評価バイアスの法則」など、通常は考えられない不合理な決断を下す「スウェイ(支配・影響・動揺・惑わす)」の法則を解き明かす。


不合理な決断の実例に膝も額もバシバシ叩きたくなるくらい当てはまる、分かりやすい自分の価値観が愛しくなる。反省するとこか。知性も教養もある者たちですら判断を誤るのだから、凡人が大きな決断で失敗しないようにするには、読んだはいいが難しい。「深夜特急1 香港マカオ篇」で、沢木耕太郎がクールにギャンブルにのめり込む場面を思い出した。227pを読むだけでもオッケーなので、購入無用、図書館で。


■『1分顔上げ 骨気メソッド』林 幸千代 レタスクラブMOOK 2008年11月 ★
美の基本はすべて骨にある。韓国の民間療法「骨気(コルギ)」の技術を習得した著者が、シミ・シワ・たるみなどを定着させない、1分でできるセルフケアを紹介。


強張った筋肉をグイグイと揉みほぐすような感覚が結構きもちいい。覚える事は少ないし簡単なんだけど、手の滑りを良くするクリーム等を塗るのがめんどくさくて、めんどくさくて、めんどくさくて、予想通り2日で止めた。購入無用、図書館で。


■『暮らしの実用シリーズ 決定版スッキリ収納の基本』林崎豊編集 学習研究社 2009年3月 ★
ライフスタイルに合わせた6人の収納達人の自宅や、コンロ周り、浅い引き出し、家電ラック、食器棚の収納アイデア、カンタンDIY、掃除のコツを紹介。


コンセプトは100均グッズ、スノコ、カラボ(カラーボックス)などの、手軽で低価格なアイテムを駆使し、雑貨店のような魅せる収納を目指すという感じ。が、雑貨と生活必需品とを隔てる壁は高すぎた。システム家具のように壁を占める棚はどこから見てもカラボ、カラフルに塗ってもバラしてもかっこ悪いスノコ、100均のカゴは使えば使うほど生活感が見えてしまい、隠す収納に活用するならいいけど、目につく場所ではどうなのよ? なチープ感。隙間なくぴっちりとキレイに並べられた収納達人宅など、とにかくモノが多すぎて驚く。「おはよう奥さん」2003年1月号〜2009年新年号の掲載記事を元に再編集。モノを捨てるのは難しく、それが出来れば誰だって苦労はしないが、結局のところ捨てるしか方法はないと再確認。購入無用、ザザッと立ち読みで。