一生に一度体験5 最終回

続き。翌朝は7時起床。安い旅館は朝早くからザバザバと、隣の部屋のトイレを流す音が丸聞こえてくるけど、ここの客室はとても静か。朝食ブッフェのきっかり1時間前に、大浴場へ行く客たちの話し声が廊下から聞こえる事もない。昨夜の夕食中に新しい浴衣が部屋に用意されており、濡れたまま洗濯機に入れっぱなしだったシャツのように皺くちゃになった浴衣から着替えて、パリッと大浴場へ。


と、その前に「その浴衣、サイズ何?」と姉。私が着ていたのはMサイズで、姉が着ようとしていたのがLサイズ。姉は私よりも背が低いが、昨日、私が着ていた浴衣もやっぱりMだった。うっそ、全然気づかなかった。昨日、姉は自分には丈が長いけど、私にはつんつるてんだなぁと思っていたそうだ。その時に言ってくれよ!! そういや、チェックインして部屋に案内された後に浴衣が用意されたっけ。「プロが選ぶ日本のホテル・旅館100選」28年連続一位の「加賀屋」を紹介するテレビ番組を観ていた時に、梁を基準にお客様の浴衣をご用意するって言ってたのに、お心遣いにさっぱり気づかない私たち。ああもう、申し訳ない。早速、浴衣を取り替えてLサイズを着たらピッタリだった。これだよ、これ。足袋靴下が下駄で滑って歩きにくいため、部屋の入口に脱ぎ捨てて大浴場へ。


部屋を出てすぐ仲居さんに挨拶され、笑顔の下のスルドイ眼差しが大浴場へ行くのですね、お布団のお片付けタイムですねと物語ってる。うそー!! 風呂から戻って片付ければいいやと思って部屋は散らかし放題で、いま布団を片付けられたら、脱ぎ捨てて抜け殻状態の足袋靴下が!! ていうか、ぶちまけてきた荷物が。予想通り、戻ってきたら布団が片付けられていた。やっぱり。抜け殻放置の足袋靴下は出て行った時のままの状態で、見なかった事にしてくれていて、ぶちまけていた荷物はさりげなく寄せ集められていた。


テーブルの上にはオレンジジュースと冷たいおしぼりが用意されている。グラスは汗をかいておらず、たった今置きましたという雰囲気。いつの間に!! 冷たすぎない絶妙な飲み心地の絞り立ての生ジュースを飲み終わる頃、仲居さんが梅茶を持ってきた。朝っぱらから次々と!! 梅茶は温かく、しば漬け入りのお茶を飲んでるみたいだなぁと思っていると、「梅茶漬けの味だよ〜」と姉。それだそれ、梅茶漬け!! 私たち姉妹にはいまひとつでございました。ていうか、オレンジジュースで幸せいっぱいだったのに、何故に梅茶が続く?

 
客室内は姉のauの携帯電話の電波が入らず、メールなどもみられない。私のソフトバンクは問題無し。姉は客室から外へ出て(この階は各部屋にミニ庭つき)、「もしもし? ふーちゃん? ママだけどー」ってアンタ、静まり返った旅館に響きまくり!! 「この部屋ラジオも聞けなかったよ〜」と姉。なんのこっちゃで聞き返すと、深夜放送を聞くために、ポケットラジオを持ってきたとのこと。オヤジか!!


梅茶はそっくり残して、8時に朝食が運ばれてきた。今回は料理長の献立を書いた紙がないので、なんだかもう食べても分からない。肉厚の鯖の塩焼き、汲み上げ豆腐、えーと、その他もりだくさん。緑色が混ざってる美味しそうな白い塊があったのでゴッソリ食べてみると、死ぬほど苦くてウエーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!! なんだこりゃ、ペッペッペッ、ウエーーーーーーーーーーーーーーッ!! ペッペッペッ、ウエーーーーーーーーーーーーーーッ!! 食べた事ないの?と驚かれたが、わさび漬けって初めて食べた。モーレツにマズイ。水、水、水ー!! ああもう、どんな食べ物なんだ、意味分かんない。姉が言うには新鮮で美味しかったとのこと。ホントかよ!!


朝食も食べきれないほどの量で、梅干しも海苔もご飯もたっぷりあったので、ラップがあればおにぎりにして昼食にしたいくらい。惜しい!! デザートはクラッシュゼリー乗せのグレープフルーツ。普段食べているグレープフルーツの10倍くらい完熟な味。すんごく美味しい。皮との境目に切れ込みが入れてあり、サクッとスプーンで簡単に食べられるようになっている。がしかし、こんなに皮に身を残しておくとは何事よ? というワケで、メロンやスイカの皮のギリギリまで食べるが如く、スプーンで残った身をグリグリと削り取っていたら、ビューッと果汁が飛び散った。畳は無事か!!


出発は11時なので、ぶーらぶらと彫刻の森駅へ歩いて行き、箱根登山鉄道に乗って隣の駅の強羅駅で降りて、ぶらぶらと歩いて強羅花壇へ戻る。強羅駅に近い場所にもあると聞いていた、強羅花壇の2つ目のマイ踏切りを渡ると駐車場へ出て、宿泊客たちの外車がズラーリ。マイ踏切りのギリギリのところに立ち、木立ちから覗く建物の雰囲気が素晴らしい。写真、写真、写真。するとちょうど中央に観光バスが。なんだあの邪魔なバスは、台無しなんだよ!! 私たちの乗って来たバスだった。ああもう、見えない所に停めなさい。


チェックアウトを済ませてロビーの横の喫茶へ。隣の席には上品なマダーム4人組。コーヒーが1,500円くらいしたらどうしようかとビビリつつメニューを見ると、945円。ふぅ、思ったより安かった。「去年泊まった箱根の旅館と強羅花壇じゃ、アリさんとゾウさんくらい違うよ」と姉。なんだその例えは。松本引っ越しセンターか。


11時にバスが出発。夢のようなひとときよ、さようなら〜。私たちのバスが出て行くのと入れ替わりに、クラブツーリズムのゴージャスバス「ロイヤルクルーザー」(座席数が少なく足元広々、煎れたてコーヒーなどのサービス、トイレには化粧台)が入っていく。宿泊の時間にしては早いので帰宅後に調べてみると、花壇での懐石料理と箱根美術館「だけ」の日帰りバスツアーで2万円のコース。ホントかよ!! でも考えてみたら、高くはないかな。いやいや、2万円なら強羅花壇の入浴付き計3時間滞在にしてくれないと、無料のマッサージチェアもお茶も飲めないし〜。って、私がコースを決めてどうする。


ビデオでも見ましょうかと添乗員。いつもは釣りバカか、寅さんだそうだ。どちらも1作も観た事がなかった私も、格安バスツアーに乗るようになってから随分見た。今回は若い人(?)もいるという事で、用意したのは「スウィングガールズ」なんで? いやいいけど。姉は帰りも新幹線なので11時40分に小田原駅で下車。その後は海老名SAでトイレ休憩後、渋滞もなく「もうすぐ、東京の駅の方に到着しま〜す」と添乗員。お前は消防署の方から来ました、の消火器詐欺か!! 予定通り13時40分に東京駅新丸ビル前に到着。新丸ビルのレストラン街でカレーを食べたらガッカリするほど不味くてコンチクショーだ。終わり。


結論。強羅花壇はサービスや料理が一流なだけでなく、宿泊客が一流なのでありました。騒がしい客たちに心を乱される事もなく、静かな館内と行き届いた心遣いに心からくつろげる。ああもう、1週間くらい泊まりたい。ていうか、一番安い部屋でも1週間泊まった日には35万円。次は宝くじを当てるしかない。