7月鑑賞の映画

■『ソルト』-Salt- ★★★


北朝鮮への入国も可能な学者の夫と暮らす、CIA分析官のイヴリン・ソルト(アンジェリーナ・ジョリー) は、ロシア人の密告者ヴァッシリ・オルロフ(ダニエル・オルブリフスキー) を尋問中、彼女と同姓同名のロシア人スパイが、ニューヨークに訪問中のロシア大統領暗殺を狙っている、と告げられる。二重スパイの嫌疑で拘束されたソルトは逃亡するが・・・。フィリップ・ノイス監督。


身ひとつノーパン素足で厳重封鎖されたビルから逃亡し、立体交差でトラックへのダイブや、警官を頭突きでノックアウト、野郎どもをブチのめし、地上最強の女と化す怒濤のアクションの連べ打ち。肉弾戦だけじゃなく、万引き、置き引き、かっぱらいテクで次々と調達し、失神中の運転手をワイヤー針式のスタンガンで操ったり、手錠のチェーンでジャンピング首吊りアタックなど、もはや人間業を超えて痛快。「プレデターズ」の惑星へ連れて行った方がいいと思う。裏も表も侘びも寂びもなく、ひたすらアンジーの派手なアクションで魅せる1時間40分。


■『エアベンダー』-The Last Airbender- ★★★☆


気・水・土・火の4つの王国によって均衡が保たれていた世界。各王国にはそれぞれの国のエレメントを操る“ベンダー”がおり、輪廻転生によりただ1人存在する4つのエレメントを操る選ばれし者“アバター”が、世界に調和をもたらすと崇められていた。


アバターの不在により、火の王国の侵略で秩序が崩壊してから100年後。水の国のサカ(ジャクソン・ラスボーン) とベンダーのカタラ(ニコラ・ペルツ) 兄妹によって、氷に閉じ込められていた12才の少年アン(ノア・リンガー) が救出される。彼こそが、その重責に臆し修行途中で逃げた気の王国のアバターだったのだ。自らの引き起こした惨状を知ったアンは、水のエレメントを習得すべくサカとカタラとともに水の王国へ向かうが、火の王国を追放された王子ズーコ(スラムドッグの主役) が執拗に追う・・・。M・ナイト・シャマラン監督。


米TVアニメ『アバター 伝説の少年アン』を実写映画化。アニメ版をYouTubeで少し観たけど、子ども向けでオリエンタル〜な感じ。ハリウッドの大作ファンタジーとは桁違いにキャストが地味揃いの映画は、1時間43分と短く、始まって早々に「話が終わるワケがないだろう」と思った通り、物話の途中のキリのいいところで終わり。興行成績如何で2作目や3作目はあるか? 是非とも続編が観たい。望まない宿命を受け入れ勝利するまでのアンの成長と、火のベンダー技がカッコいいベンダー対決もアニメ的な面白さ。アンに強大なパワーが満ちる、背中から額にかけての「↓」のタトゥーと目玉がビカーッと光る激マジの時の画ヅラがかなり笑える。なんで矢印?


■『インセプション』-Inception- ★★★★


ドム・コブ(レオナルド・ディカプリオ) は、ターゲットの夢を操り、無防備となる潜在意識から情報を盗み出す“エクストラクト”のスペシャリスト。富豪の大物実業家サイトー(渡辺謙) の機密情報を盗む依頼を受け、相棒(ジョセフ・ゴードン=レヴィット) と共に潜るが、夢の中で妻モル(マリオン・コティヤール) に邪魔され失敗する。


依頼主に追われる身となったコブの前にサイトーが現れ、ライバル社の御曹司(キリアン・マーフィー) へ、ある考えを植え付ける“インセプション”を依頼。難易度が高く危険な仕事だったが、子どもたちが待つ米国へ帰国できるよう計らうとサイトーが約束し、コブはチームを招集。複雑な夢がうまく機能するよう細部を詰める相棒、夢を構築する設計士(ジュノ)、別の人物に成り済まし誘導する偽造師(トム・ハーディ)、複数人で夢を共有させる調合師(「スペル」の霊媒男)、結果を見届けるため立会を要求するサイトーの6人は、創り出した御曹司の夢へ入るが・・・。 クリストファー・ノーラン監督、脚本。


現象のリアリティを伴う説明は見事にすっ飛ばして破綻しない精巧な脚本、独創的で圧倒的なヴィジュアル、バック・ストーリーを想像させる魅力的なキャラクター、なんかスゲーって気分が盛り上がる重厚な音楽、2時間30分という膀胱限界の尺を感じさせない傑作映画なんだと思う。単純な話が好きな私には、ちょっとめんどくさいが。スペシャリスト集団が、膨大な手間とお金をかけて危うい潜在意識の中で情報を盗む、オーシャンズ11の脳内版のような気楽な娯楽作を期待すると外すと思う。文字通り目が回るほど忙しい相棒の無重力アクションは見所。ディカプリオは「シャッターアイランド」再び状態。観る度に日本人らしくなくなっていく渡辺謙は、出番は多いが正直どうでもいい役。


■『借りぐらしのアリエッティ』-The Borrowers- ★★☆


身長が10センチの14歳の少女アリエッティ(声:志田未来) は、父ポッド(三浦友和) や、母ホミリー(大竹しのぶ) と3人で、古い屋敷の床下で静かに暮らしている。生活に必要なモノは、この屋敷の主である老婦人・貞子(竹下景子) と、お手伝いのハル(樹木希林) に気付かれぬように「借りて」きていた。彼らのような借り暮らしの小人たちは、人間に見られたら、その家から引っ越さなくてはならない掟なのだ。ある夏の日、アリエッティは手術を控えて静養のためやってきた12才の少年・翔(神木隆之介) に姿を見られてしまう。人間が全て危険だとは思えないアリエッティは翔に会いに行くが・・・。メアリー・ノートン床下の小人たち』原作。米林宏昌監督。


古切手を絵画に見立てて飾り、チェスの駒を胸像に、えんぴつのキャップは花瓶へと姿を変える床下生活の彩りの豊かさに目を奪われる。対照的に無味乾燥とした人間の家の中で、華奢なアリエッティが初めて“借り手”となる序盤の高揚感は心をわし掴み。庭の自然も絵画のような美しさ。ハウルでワケ分かんなくなって以来、ゲドとポニョをパスしたが、これはイケる!! と思ったのもつかの間、冒頭で見せ場は終わり。


受け継がれた暮らしを守り、深い絆で結ばれた家族は滅びゆく先にも精神は生き続けていくが、物質社会に生きる自分本位で傲慢な人間の心は死んでしまうだろうの図式。原作がそれほど面白いわけではなかったが、窮屈で不自由な暮らしだからこそ、必死で借り集めた床下の家への執着と、移住との葛藤で揺れる小人の心の弱さに共感し、好奇心旺盛な少女と無邪気で気弱な少年の、交流と成長も活き活きと描かれていた。舞台を現代の日本に移した映画では、古い日本家屋の床下で西洋様式のまま暮らしている、清く正しく美しく勇敢で高潔なジブリ色のキャラクターと、原作のエピソードが混じり合い、ちぐはぐに感じる。床下で借り暮らしする必要性が感じられないくらい立派なのだ。何より、原作にはきちんと流れがあった「君たちは滅びゆく種族なんだ」という言葉の唐突さに驚く。不愉快な存在でしかないお手伝いもクビだろう。


■『プレデターズ』-Predators- ★★


遥か上空から落下中に意識を戻した傭兵ロイス(エイドリアン・ブロディ) は、鬱蒼としたジャングルに降り立つ。同じように光に包まれた後に意識を失い、パラシュートで降下してきた、CIAの美人狙撃手(アリシー・ブラガ) 、ペヤング顔のスペツナズ隊員(総合格闘家の人)、メキシコ暗殺集団の肌荒れオヤジ(ロドリゲス映画の常連ダニー・トレホ)、2日後に刑が執行される死刑囚(「ザ・シールド」の暴れん坊シェーン刑事)、アフリカ革命統一戦線の黒人(「4400」のリチャード)、戦闘とは無縁の医師(「スパイダーマン3」のヴェノム)、ジャングルで裸足になる日本人ヤクザ(ルイ・オザワ) らも同じ状況だと知る。


やがて、ここが残虐な生物が狩猟場として用いる惑星で、ハンティングの“獲物”として拉致されたと悟ったロイスは、不本意ながら彼らを率いる羽目になり、地球への帰還の道を探る。そして、唯一の生存者(ローレンス・フィッシュバーン) と出会うが、1人また1人と無惨に殺されていく・・・。ニムロッド・アーントル監督。


1987年の「プレデター」の続編として製作されたSFアクション。戦闘エリートをピックアップしたプレデターの目が節穴で、ただ銃をブッ放すだけの凡人揃い。エイリアンとサシで勝負できるプレデター3人に対し、ゲリラ戦では戦力外の死刑囚(ナイフ)と、医師(メス)と、ヤクザ(拳銃一丁) を含む、人間がたった8人というのが無茶な話だろう。1人くらいサバイバルのスペシャリストを拉致してきて欲しい。傭兵や特殊部隊という肩書きに説得力のないキャラクターに魅力も深みもなく、顔だけで何かやってくれそうなローレンス・フィッシュバーンに至っては、スピルバーグ版「宇宙戦争」のティム・ロビンスくらい勿体ない。パッとしなかった「プレデター2」の方がまだマシで、面白くなると期待していたのに残念。


■『トイストーリー3 3D字幕版』-Toy Story 3- ★★★★★


アンディがおもちゃで遊ばなくなってから数年。大学生になり家を出るアンディ(声:ジョン・モリス) は、1番のお気に入りだったカウボーイ人形のウッディ(声:トム・ハンクス) だけを連れて、バズ・ライトイヤー(ティム・アレン) たち他のおもちゃは屋根裏部屋へと仕舞われようとしていた。アンディに見捨てられたと誤解したおもちゃたちは、子どもたちと遊ぶ保育園行きを選ぶが、そこはロッツォ(ネッド・ビーティ)というクマのぬいぐるみが支配する、おもちゃを破壊する乱暴な園児たちがいる場所だったのだ。アンディの引っ越しが迫る中、ウッディは仲間たちの救出に向かうが・・・。リー・アンクリッチ監督。


1作目から15年を経て、3作目にしても期待を裏切らないクオリティの高さ。本気度が違う。勇気、友情、笑い、感動のツボをガシガシ突きまくり、キャラクターの特徴を生かしたアクションに脱帽、アンディの元へ皆を連れて帰ろうとするウッディの健気さにホロリときて、これ以上にないエンディングで幸福感に包み込んでくれる。少年期の終わりを見事に描いて、大人心に沁みるストーリー。溶鉱炉のシーンでは思わず胸が熱くなった。思い出しただけで泣きそう。出番はあまりないが、やんちゃだったアンディが健全な青年に成長していて惚れる。それに引き換え、悪ガキのシドを突き放すブラックさが怖すぎる。新キャラのバービーの恋人ケンがアホで純情で最高。シンバルを叩く猿のぬいぐるみに大受け。絶賛お勧め中!!


■『ザ・ウォーカー』-The Book of Eli- ★★★★☆


文明崩壊後の近未来。30年間、アメリカ大陸をひたすら西へ向かって歩き続ける男(デンゼル・ワシントン) がいた。ウォーカーと呼ばれる彼は、文字を読めない者たちが育った荒廃した世界で、自身が目的も理由も届け先すらも分からないまま、世界にただ1冊残る本を運ぼうとしていたのだ。最も価値のある汚染されていない水を独占する、インテリ独裁者カーネギー(ゲイリー・オールドマン) は、世界を支配する力を持つ1冊の本を探し続け、ウォーカーが持っている本こそが目的の本だと確信し狙うが・・・。アルバート・ヒューズ、アレン・ヒューズ監督


西へ〜向かうぞ〜ニンニキニキニキニ〜ン♪ で、な、なんと30年!! 悲壮感漂うセピア色の終末世界で、一匹狼ウォーカーの強さはケタ外れ。残虐なアホ野郎どもに取り囲まれても、目にも止まらぬ刀剣さばきで瞬殺し、こぼれ落ちそうなほど目が大きい美人(ミラ・クニス) を襲う荒くれ者には弓矢で必中。武装集団から丸見えの通りのど真ん中にいようとも、物陰に隠れるようなセコイ事をしない仁王立ちのガンアクションで皆殺しだ。お前は不死身か!!


これがB級映画にならない、作品の格を上げるデンゼル・ワシントンの存在感。ゲイリー・オールドマンも情けない悪役がよく似合う。そして、思い出してみれば幾度となく伏線があるにはあった、“気が付く訳がない”オチにホントかよ!! の驚愕必至。観終わった瞬間に、速攻でもう1度観たくなる。カーネギーの情婦役で、変わらず美しいジェニファー・ビールス(フラッシュダンスの人) に2度びっくり、終了後に客席を振り返ると爆睡している人多数で3度びっくり。


■『アイアンマン2』-Iron Man 2- ★★★


巨大軍需企業「スターク・インダストリーズ」社長トニー・スターク(ロバート・ダウニー・Jr.) が、自らがアイアンマンだと公表してから半年。勝手気侭なヒーロー行為が問題となり、公聴会に召喚されたトニーはアーマーの没収を命じられるが拒否。トニーを蹴落とし軍事提携の独占を目論む「ハマー・インダストリーズ」社長ジャスティン(サム・ロックウェル) は、トニーを襲撃した物理学者イワン(ミッキー・ローク) に接触し、アイアンマンに似せた試作アーマーの開発を進める。ある事情を隠し自暴自棄のトニーは問題行動を繰り返し、秘書ペッパー(グウィネス・パルトロウ) に社長の座を、友人ジェームズ中佐(ドン・チードル) に試作型の「マーク2」アーマーを譲るが・・・。ジョン・ファブロー監督。


大リーグボール養成ギプス状態で電磁鞭をブンブン振るうミッキー・ローク登場&トランスフォーマーばりのアイアンマン変身シーンまでは、バカバカしいほど派手で豪快、チョイ悪オヤジ対決も余裕綽々。その後はダラダラと中弛み。金歯ピッカピカの筋骨隆々コワモテ物理学者ミッキー・ロークも、お年なだけに老眼鏡を掛けたり外したりしながら、チマチマと作業して急速にショボくれてくる。「ブラック・ダリア」の時には、はち切れんばかりに肉が詰まっていたスカーレット・ヨハンソンは、キュ〜ッと絞った涎もんのナイスボディで超クール。逆にアイアンマンの存在感は薄い。グウィネス、サミュエル・L、ドン・チードルは中途半端に出番が多く、「アベンジャーズ」への布石、トニーの“秘密”と大忙しのストーリーは散漫となり、クライマックスのあっけなさには目を疑う。