5月鑑賞の映画

■『冷たい雨に撃て、約束の銃弾を』-Vengeance 復仇- ★★★★


マカオの高級住宅地。帰宅直後の襲撃で中国人の夫と2人の子どもが惨殺され、妻アイリーン(シルヴィー・テステュー) は瀕死の重傷を負う。フランスから駆けつけた彼女の父で料理人のコステロ(ジョニー・アリディ) は、犯人の僅かな特徴を聞き出し、愛する娘に復讐を誓うが、異国の地で右も左も分からない。そして偶然、仕事を終えたオヤジ(アンソニー・ウォン)、皮ジャン(ラム・カートン)、デブ(ラム・シュー) の3人組の殺し屋に出会い、全財産と引き換えに彼らに復讐の助っ人を依頼する。早々に実行犯を見つけ出す事はできたが、しかしコステロには昔、頭部に受けた銃弾がもとで急速に記憶を失くしつつあったのだ。何故、復讐しようとしているのか。そして何故、自分がこの国にいるのかさえも…。


・・・ってホントかよ!! 復讐相手と味方である助っ人との銃撃戦の最中、もはや誰が誰だか分からず茫然自失で立ちつくすコステロ。元一流の殺し屋で身体が覚えているその手には拳銃が。お前が1番危ないんだよの緊迫感。“記憶を失くした男に復讐の意味はあるのか?” という問いに、約束を貫き通すアンソニー・ウォンは激渋で、夜だろうが、豪雨だろうが、リサイクルペーパーが乱舞する銃撃戦だろうが、サングラスを外さないよ、この人は。4人で自転車を狙い撃つ場面は格好良くて泣きそう。同監督「エレクション」での“陶器のレンゲを貪り喰う”場面にも腰を抜かしたが、壮大な大玉転がし合戦での撃ち合いとなるクライマックスの突飛さは圧巻の一言(公式サイトの予告映像で是非)。血の復讐が雪だるま式に周囲を巻き込み悲劇を生む、苦悩の果てのエンディングは、えええー? と肩透かしでもあるけど温かい。着たきり雀のコステロのスーツは、雨でずぶ濡れになろうとも、海水に浸かろうともパリッとビシッとヨレ知らず。


■『タイタンの戦い』-Clash of the Titans- ★★


神々の王ゼウス(リーアム・ニーソン)と人間の女の間に産まれたペルセウス。出生を知らず逞しく成長したペルセウス(サム・ワーシントン) は、ゼウスを陥れようと機を伺っていた冥界の王ハデス(レイフ・ファインズ) によって、養父母と妹を殺される。創造主である神々に反乱を企てる人間に激昂したゼウスは、ハデスの口車に乗り事態の収拾を彼に一任し、神の身体と人間の心を持つペルセウスは、人間として神々に宣戦布告する。そして、神よりも美しいアゴ割れ美女アンドロメダ姫(アレクサ・ダヴァロス) を救うため、1週間後の期限までにハデスの操る巨大な海の魔物クラーケンを倒す方法を見つけるべく、ドラコ(マッツ・ミケルセン) たち数人の勇者たちとともに旅へ出るが…。


1981年のオリジナル版はのんべんだらりとテンポが悪かったが、比べてリメイク版は自然で派手なクリーチャーとのバトルが豪快で、分かりやすい順番で脇役がテンポ良く死んでいく見せ場の連続。神々の無茶ぶりもなく、キャラクターが随分違うけど、なんだかんだで結局どうって事のない話。フクロウはサービスカットの1シーンのみで、道案内は石田ひかり似のイオ(ジェマ・アータートン) が務め、ペガサスは自分から飛んで来てくれる。大作映画で主役を張るには、サム・ワーシントンは華がないと思う。エウセビエス役の青年がイケメンだと思っていたら、「アバウト・ア・ボーイ」のマーカス少年ニコラス・ホルト。しかし、ギリシャ神話はホントわけ分からん。ゼウスはペルセウスに苦言を呈するが、お前が1番しっかりしろよ。


■『運命のボタン』-The Box- ★★★★★


肉体の一部を欠損している教員ノーマ(キャメロン・ディアス) と、NASAに務める薄給の夫アーサー(ジェームズ・マースデン) は、愛する息子と暮らす平凡な一家。ある早朝、赤いボタンが見える鍵の掛かった箱が届く。添えられたメモの時刻に尋ねて来た初老の男(フランク・ランジェラ) は「24時間以内にこのボタンを押せば百万ドルを差し上げるが、世界中のどこかで、あなた達の見知らぬ誰かが1人死にます」と言い残し鍵を置いていく。ノーマは息子の学費の教員割引の廃止を告げられたばかりで、夫婦は悩み抜いた末にボタンを押してしまう…。


ちなみに原作では5万ドル。他人の命がどうとか道徳心は関係なく(なくていいのか)、「猿の手(※)」を知っている人ならボタンを押すわきゃないんだが、どうやらご存知なかったらしい。教員割引の廃止で生活が苦しくなると悩むなんてこの夫婦ときたら、まずその新車のコルベットを乗り代えて、息子を転校させて、安い家に引っ越さんかこのバカものめ!! 皮肉な結末の謎深い超短編が、多くの観客をどん引きにさせるであろうSFを盛り込み、苦悩にのたうち回る深い物語を展開。結末は原作と全く違うがすごく面白い。でもこの結末ならボタンを押した人物が逆か、夫が主人公の方が良かったと思う。SF要素と結末で好き嫌いがはっきり分かれそう。原作はリチャード・マシスンスティーブン・キング好きなら必見。
※息子と暮らす平凡な夫婦が3つの願い事が叶う「猿の手」を手にする。少し余裕のある暮らしを望み「僅かなお金」を1つ目に願い、その金額の通り手に入るが、その金の出所は…という話。


■『9<ナイン>〜9番目の奇妙な人形〜』-9- ★★★★☆


古びた研究室の片隅で、麻布を縫い合わせて作られた人形が目を覚ます。お腹には大きなジッパー、背中には数字の“9”が描かれていた彼は、自分が誰でどこにいるのも分からないまま、人類が滅亡した後の廃墟と化した街を彷徨う。やがて、自分と同じように背中に“2”と描かれた人形と出会うが、直後に凶暴な機械獣に襲われ“2”はさらわれてしまう。同じく数字が書かれた人形に助けられた“9”は“2”の救出へ向かうが…。


ダークな世界観とオリジナリティ溢れる数字人形たちが、強烈な魅力を放つビジュアルが素敵すぎて嬉しい。頑固ジジイの“1”以外で1体欲しいなぁ。謎のままにしておいた方がいい背景は説明過多で、肝心な状況は説明不足、人形たちの悲哀や葛藤は描かれずストーリーはあっさり仕上げ。加速装置と勇気だけを武器に敵に挑む009の如く、無茶な天然ヒーローの“9”、仲間思いの発明家の“2”、気弱なエンジニアの“5”、ちょっとイッちゃってる芸術家の“6”、某姫似のやたらカッコイイ女戦士“7”など、小さな彼らのバトルアクションは手に汗にぎる迫力で興奮。博士が数字人形たちに託した落とし前のつけ方は、ちゃんと説明しとかないもんだから、思いも寄らぬ結末へ。