8月鑑賞の映画感想

■『ローマ法王の休日』-Habemus Papam- ★★☆(基本シリアスで盛り上がらないので注意されたし)


[ストーリー] ローマ法王が逝去し、各国の枢機卿の投票により次期法王を選出する「コンクラーヴェ」が開催される。サン・ピエトロ広場を埋め尽くすほどの民衆が、新法王誕生の瞬間を待ちわびる中、世界から隔絶されたシスティーナ礼拝堂の中では、枢機卿たちの誰もが密かに願っていたのだ。「神様、一生のお願いです。どうか私が選ばれませんように――。」


本命視されていた枢機卿たちの票がまとまらず、幾度となく投票が繰り返される。そして選ばれたのは、それまで名前の挙がらなかったメルヴィル(ミシェル・ピッコリ) だった。戸惑いながらも、神が決めた結果を受け入れ法衣を身につけるメルヴィル。しかし、大観衆の歓声にパニックを起こした彼は、就任演説のバルコニーに出られない。ヴァチカンの報道官(イエルジー・スチュエル) は、極秘で精神科医(ナンニ・モレッティ) を呼び寄せるが事態は変わらず、メルヴィルは警備の隙を突いてローマの街に逃げ出すが・・・。ナンニ・モレッティ監督、105分。


[コメント] 86歳のミシェル・ピッコリが猛ダッシュかました新法王のプチ家出!! 公式サイトのあらすじでは、『メルヴィルは街の人々と触れ合うことで信仰心や真心などの人生において大切なものや、法王の存在意義とは何かを見つめ直していく。』とある。これが大ウソ!! 真っ赤っ赤な大ウソ!! コメディタッチの予告編から受けたイメージから、この映画を完全に勘違いさせられた。気弱で真面目な主人公がヴァチカンから逃亡、ヴァチカン報道官らは隠蔽工作と法王の捜索に奔走し、ヒマを持て余す超お堅そうな枢機卿たちはバレーボールなんかしちゃったりして、悩み続けた主人公がついに法王就任の演説を果たす・・・。流れはこの通りで間違いはないんだけど、笑ってホロリの感動の「ヒューマンコメディ」とはケタ違いの大違い。その心積りで鑑賞すれば戸惑う事もないのに、配給会社の宣伝マンは劇場引き回しの刑だコノヤロー。


水戸黄門みたいに、彼が誰だか知らない善良な庶民宅に泊めてもらうとか、一般社会との認識のズレで笑わせるとか、信仰が揺らいでいる人に横から目線で導くとか、病院送りの劇団員の代わりに若き日の夢だった舞台へ上がるとか、ヨッ、さすが新法王!! と、感動のクライマックスへと盛り上げる、そういう分かり易いお決まりの場面が全然ない。セラピスト(マルゲリータ・ブイ) と彼女の子ども達など、様々な職業の人と出会うには出会うが、交流が深くなるエピソードもなく、心底びっくりするくらい物語が展開しない。法王逃亡という設定が面白くてワクワクするし、何度か笑える場面もあるのに心底残念。だから彼が選ばれたのだと思いたかった。重責を押し付けられたメルヴィルは、それでも信仰心からその使命を果たすべきなのか。ままならぬ人生の苦悩が底なしに深すぎて辛い。私が迷える子羊になってしまう。


■『プロメテウス』 -Prometheus- ★★★★★(グロ映像あり。血が苦手な方にはお勧めしない)


[ストーリー] 時代も場所も異なる古代文明の遺跡から、未知の惑星の存在を示す壁画が多数発見される。2093年、それが“人類の想像主からの招待状”だと解釈した考古学者エリザベス(ノオミ・ラパス) をリーダーに、公私共にパートナーのチャーリー(ローガン・マーシャル=グリーン) 、スポンサーであるウェイランド社の亡き会長ピーター・ウェイランド(ガイ・ピアース) の娘メレディス(シャーリーズ・セロン) 、同社のアンドロイドのディヴィッド(マイケル・ファスベンダー) ら、17名のクルーが宇宙船プロメテウス号で探索に向かう。人類の起源を求めてその惑星に辿り着いた彼らは、期待とは違った想像を絶する事態に見舞われるが・・・。リドリー・スコット監督、124分。


[コメント] 人類と良く似た姿だが地球人ではない男が、巨大な飛行物体が去った後で使命を果たす気宇壮大なオープニング。スゲー!! 何がスゴイって、このパンツ一丁男の筋肉がモリモリモリモリでスゴイ。スゴイのはそこか!! 壁画の中の人物が星を指を差してるだけなのに、なんでそれが“招待状”だと思うんだ。誰も招待してないよ。ていうか来るなよ!! (パンツ一丁男の仲間の心の声、代弁)。しかし、行ってしまう地球人。同監督「エイリアン」と8割くらい同じ展開ながらも、最新技術で魅せるその8割も、怒濤の映像ラッシュの新要素2割も、隅から隅まで目を見張りっぱなし。そして、アンドロイド野郎はやっぱり信用ならない。イケメンに騙されちゃいかん。ある人物が未知の生物と壮絶かつ笑えるバトルを繰り広げた後、巨大うなぎの踊り食いのような悲惨な事になり、な、なんと、そこから「とんでもないもの」が出る衝撃のクライマックスに思わず身を乗り出す。そうきたか!! お前のせいだったのか!!


オリジナル版「ミレニアム」シリーズでも、常軌を逸した死闘を繰り広げたノオミ・ラパスが、今作品でも並外れた生存本能を漲らせ、次々と見舞われる悲惨な事態に自力で立ち向かう。腹をざっくり割いた後に、ホチキスみたいなのでパチンパチンパチンパチーンだけ。うそー!! 今、この最新鋭の手術マシーンを売り出しても売れないに違いない。死にものぐるいで走るエリザベスとメレディスに、前方じゃなくて横、横、横だよ、横に逃げろーと心の中で叫びっぱなし。シャーリーズ・セロンは続編にも出演して欲しい。本人も人間だと思ってるくらいの超最新型アンドロイドでした!! てな感じで。2年半も会社から離れて未知の惑星など行くワケないよ〜、とか何とかで。エンドロールの最後にオマケ映像(企業ロゴ)あり。


■『THE GREY 凍える太陽』-The Grey- ★★★★(グロ映像あり。お勧め度は低し)


[ストーリー] アラスカの石油採掘現場の作業員たちを乗せた飛行機が山中に墜落、野獣対策のスナイパーとして雇われていたオットウェイ(リーアム・ニーソン) ら7人が生き残る。そこは、見渡す限りの深い雪に覆われたマイナス20度の極寒の地であり、野生の狼たちの縄張りだったのだ。救援の見込みがないと判断したオットウェイは、生存者らを説得し南を目指す。乏しい食料を分け合い、僅かな希望に賭け、生存者たちはひたすら歩き続けるが、狼たちはどこまでも彼らをつけ狙う・・・。イーアン・マッケンジー・ジェファーズ「Ghost walker」原作、リドリー&トニー・スコット兄弟製作、ジョー・カーナハン監督、117分


[コメント] フィクションでは極寒のアラスカに墜落する「ザ・ワイルド」と似たような状況ながら、あの映画で闘うのは人食い熊(と妻の浮気相手)で、この映画の主人公たちに襲いかかるのは、人食い狼。なんだ狼かよ!! と、若干なめて掛かって観ていたら、こいつらが相当タチが悪い。複数の人間や炎を全く怖れずに近づき、気付いた時にはお前はもう死んでいる状態。思わず、映画館の椅子から飛び上がりかけた。墜落現場の死体がまだどっさり残っているにも関わらず、僅かな生存者をつけ狙う。死体を食え、死体を。それも襲って殺したら残さず食べてから次の人間を襲えというのに、いちいち食い散らかす。皮膚を切り裂き、肉を喰いちぎるその恐怖に、生存者たちは意識が遠くなるほど疲れていても走り出す。


映画の開始からほんの数分で墜落し、その後は延々と延々と延々と延々と緊迫したサバイバルが続く超シンプル展開。ジーパンを履いていたり、毛糸の手袋をしていたり、川に落っこちたりと、マイナス20度じゃなかったっけ? というのが若干怪しい状況ながらも、人食い狼だけで上映時間のほぼ全てを引っ張る尋常ならざる緊張感は見事。ホラーだって少しは気を抜けるシーンがあるものけど、この映画にはそういうのが一切なし。一瞬足りとも気が抜けない。凶暴な狼の群れに対し、武器となるのは散弾銃の「弾だけ」が数発とナイフ、ライター、酒の小瓶だけ。


狼の生態に詳しいオットウェイが、罠を張ったり、出し抜いたり、マクガイバーばりの奇想天外な作戦を実行したり、などという事は一切なく、生存者たちはとにかく走って逃げるのみ。生存者たちの背景をくどくど説明せず、それぞれの財布から人生が見えるようになっているのもベタな演出ながら効果的。お前は狼に殺されてしまえと思わせたならず者が、なんとしても生きて闘って欲しいと願わせる。泣かせるぜコンチクショーだ。私の財布にはSuicaとクレカとポイントカードと銭洗い弁天で洗った5円玉っきゃ入ってないけど、さすが外国人の財布は分かりやすい。ところで、サバイバル映画では小便をしに1人になると真っ先に殺されるという法則通り、小便男がちょっ速で殺される。小便、注意!!


最愛の妻に去られ生きる気力を失くしていたオットウェイが、「ある目的」のために生き延びようとする心情が心に沁みる。愛する家族の元へ帰りたいと切望する生存者たちに、立ちはだかる自然の残酷な仕打ち。しかーし!! どこへ逃げても、狼がいるのだ。ちょっと、ちょっと、どうなっているんだ。全ては自信満々で仲間を導くオットウェイが一番厄介だったというか、みんな機体の残骸に残っていた方が良かったんじゃないかという。心身共に疲弊した果てのクライマックスは、神の奇跡と究極の皮肉。観賞後にこれほど疲労困憊した映画も珍しい。ラストショットのリーアム・ニーソンの、恐ろしく彫りが深い眼力に痺れた。エンドロール後も映像あり。個人的には「八甲田山」が極寒映画の不動の1位だけど、本作品は暑気払いに絶大な効果をもらし胃液まで凍らせる事まちがいなし。


■『トータル・リコール』-Total Recall- ★★★(幅広い年代に無難にお勧め)


[ストーリー] 戦争の果てに荒廃した近未来。汚染を免れた僅かな地域は富裕層が支配する「ブリテン連邦」と、労働者たちが暮らす「コロニー」に分断されていた。工場労働者のダグ・クエイド(コリン・ファレル) は、毎夜、見知らぬ女性の夢にうなされていた。美しい妻ローリー(ケイト・ベッキンセール) との生活もどこか満たされない。


ある夜、自宅を抜け出したダグは、客が望む“記憶”を植え付けられるリコール社を訪れる。しかし、装置が作動を始める寸前、突入した連邦警察官に包囲されてしまう。その時、ダグの戦闘能力が覚醒し、彼らを叩きのめして銃まで奪ってしまったのだ。自分は一体、何者なのか? ローリーまでが自分を殺そうとしていると知り混乱するダグは、自身の記憶にない手掛かりを頼りにブリテン連邦へ向かう。執拗に彼を殺そうとするローリー率いる武装警官から逃れる中で、夢に見ていた女性メリーナ(ジェシカ・ビール) に助けられるが・・・。フィリップ・K・ディックの短編小説「追憶売ります」原作、レン・ワイズマン監督、118分。


[コメント] コアを貫く超高速エレベーターで、労働者たちは毎日、ゲロも吐かずに地球の裏側まで通勤する。ホントかよ!! これぞ途中下車、絶対不可。毎日がフリーフォール状態。ヒャッホー!! リコール社の人口記憶装置、オッパイ3個娼婦、入国審査で顔がパカパカと割れた女性(なんと本人が出演)、現実か夢を判断する冷や汗など、オリジナル版の印象深いシーンをちらほら織り交ぜてある。く〜、
コリン・ファレルに鼻の奥の追跡装置を出すシーンをやって欲しかった。あと、目玉が飛び出すやつ。敵の権力者がダグと互角で闘うという珍しいクライマックス。監督の妻であるケイト・ベッキンセールを、ひたすらカッコ良く見せたアクションは成功。彼女の引き立て役となる他の出演者は印象薄い。「アンダーワールド」シリーズは好きなんだけど。


■『ダークナイト ライジング』-The Dark Knight Rises- ★★★★★


[ストーリー] 偽りの英雄の罪を被り、あえて市民の敵となったバットマンが消えて8年。ある日、CIAが保護していた重要亡命者を、正体不明の傭兵ベイン(トム・ハーディ) が拉致する。ジョーカーの罠で愛する人を亡くしたブルース・ウェイン(=バットマン/クリスチャン・ベール) は隠遁生活を送っていたが、ウェイン邸にコソ泥セリーナ(=キャットウーマン/アン・ハサウェイ) が忍び込み、あるものを盗み出す。それがベインの手に渡った事により、ウェイン・エンタープライズ社社長(モーガン・フリーマン)、重役のミランダ(マリオン・コティヤール) が人質となり、ゴッサム・シティは消滅の窮地に立たされる。ベインは、かつてブルースが導師(リーアム・ニーソン) を倒した“影の同盟”を破門された男だった。


警察組織は壊滅的な打撃を受け、囚人たちが街に解き放たれ、負の感情を煽られた市民は暴徒と化す。ブルースは執事アルフレッド(マイケル・ケイン) の制止を振り切り、バットマンの正体を知る数少ない理解者ゴードン市警本部長(ゲイリー・オールドマン) 、警察官ジョン(ジョセフ・ゴードン=レビット)、セリーナらの協力を得てゴッサム・シティを守ろうとするが・・・。クリストファー・ノーラン監督、165分。


[コメント] 同じ大富豪のヒーローでありながら、スポットライトの中心で光り輝くトニー・スターク(アイアンマン) の対極にいるような、真っ黒けの闇に紛れる孤独な男ブルース・ウェイン。これでもかとばかりに重い、暗い、辛気くさい。偏屈で生真面目な姿が辛すぎて泣けてくる。亡命者を拉致する冒頭シーンの「あまりにめんどくさい作戦」が度肝を抜き、悪役ベインの非情さも完璧。3時間弱という上映時間が短く感じるほど、正義も悪もない濃密でダークな世界観に浸れる。3部作完結編にふさわしい結末。


屋敷に引きこもり杖をついてヨタヨタ歩いていたブルースが、ゴッサムに迫る危機を告げられ再びバットマンとなり立ち向かう。ある器具を装着した途端シャッキリと歩く、歩く。ホントかよ!! 私も膝が痛いのであれが欲しい。あちこちガタがきた満身創痍の身体にむち打って戦い、引退の危機には恐るべし闇療治で奇跡のカムバックを果たす。“信念”に裏付けられた強靭な精神力と肉体を武器にバットマンを追いつめるベイン。ディスポーザーみたいなので口を覆ったヘッドギアをかぶり、見るからに本気のワル。耳かきとか歯みがきとかどうしてるんだ。これが謀略をめぐらす予想外の知性派。前作「ダークナイト」より面白く、ノーラン版の3部作の中で1番好き。バットポッドを難なく運転するキャットウーマン猫耳ゴーグルがキュート。ロビン誕生の希望で締めくくる。過去2作品に続きスケアクロウ(キリアン・マーフィ) がチョイ出演。