11月鑑賞の映画

■『コンテイジョン』-Contagion- ★★★★☆


[ストーリー] 香港出張からミネソタの自宅へ戻ったベス(グウィネス・パルトロウ) は、風邪のような症状から昏睡状態へ陥り急死する。その頃、マカオのウェイターの青年、東京のビジネスマン、ロンドンのウクライナ人モデルが原因不明の死を遂げた。いち早くその不審死に気付いたフリー・ジャーナリストのアラン(ジュード・ロウ) は、「伝染病を米政府が隠蔽」とインターネットに書き込む。


接触感染により数日で命を落とす新種のウイルスが香港で発生した。報告を受けたCDC(疾病予防管理センター) のエリス・チーヴァー博士(ローレンス・フィッシュバーン) は、感染が疑われる人々の隔離のため、エリン・ミアーズ博士(ケイト・ウィンスレット) をミネソタへ送り込む。WHO(世界保健機構) のレオノーラ博士(マリオン・コティヤール) は、感染源を特定するため香港へ飛び、中国衛生部のスンとともに、第一感染者の疑いのあるベスの行動を追跡する。感染を免れ自宅へ戻ったベスの夫ミッチ(マット・デイモン) は、高校生の娘を自宅に閉じ込め、誰もが愛する人を守ろうと動き出す。ワクチンの開発が急がれる中、パニックに陥った人々の恐怖心は膨れ上がっていくが・・・。スティーブン・ソダーバーグ監督、106分


[コメント]おつまみのナッツ、ドアノブ、グラス、支払いのカード・・・たった1度の接触だけ。ありふれた日常の行為が、わずか数日で死に至るウイルスを伝染させる。映画はウイルスよりも危険なものを描くのだが、取りあえず殻付きじゃないナッツは不衛生だろ。すぐに湿気るし。不確かな情報に人々の恐怖心が暴走し、政府への不信感、都市機能の麻痺、暴動、そして訪れる住宅街の静寂に息苦しくなる。ダスティン・ホフマン主演「アウトブレイク」の豪華俳優たちバージョンを期待すると、ヒジョーに地味。ヒジョーに渋い。ヒジョーに現実的。これがヒジョーに面白い。


背景を一切描かずともその人の人生が見える「全員アカデミー賞(ノミネート)」俳優と演出の完璧な調和。場を乱す事なく、物語に集中させる。アル・パチーノじゃこうはいかん。重要なキャラクターである、混乱を引き起こす張本人ジュード・ロウだけは微妙。心底どうでもいいんだけど、ある状況になり発表される誕生日が、私の誕生日の1日違い。惜しいっ!! 自分のくじ運の悪さに思わずガックリきた。アメリカの話なのに。順番なのに。ていうか映画だよ!! というくらい、のめり込んで鑑賞したという事で。ロビン・クックの同名小説とは関係なし。


■『ミッション: 8ミニッツ』-Source Code- ★★★★


[ストーリー] コルター・スティーヴンス大尉(ジェイク・ギレンホール) が、列車の中で目を覚ます。彼を別の名前で呼び、親しく話しかけてくる見知らぬ女性クリスティーナ(ミシェル・モナハン) に当惑したコルターは席を離れるが、鏡に映る自分の顔は全く知らない人物だった。ほどなく列車が爆発し、コルターは爆風に飲み込まれる――。


小部屋ほどのポッドで意識が戻ったコルターは、モニターを通して指示するグッドウィン大尉(岸田今日子似でチョイ恐ヴェラ・ファーミガ) から、自分が政府の極秘ミッションを遂行中だと知らされる。いつの間に!! ラトレッジ博士(最近の007のCIAの人) の特殊プログラム『ソースコード』で、その朝、乗客が全員死亡した列車爆破事故の犠牲者の1人の“死の8分前”の意識に入り込み、シカゴの大量殺害を予告している犯人を特定するというのだ。コルターは否応なく事故の8分前へ再び意識を飛ばされるが、爆破の時刻には現実へ引き戻され、乗客たちとともに「死」を繰り返す。犯人を特定するまで、ミッションを止める事は許されない。少しずつ犯人に近づき、クリスティーナに惹かれていく彼は、ミッションに疑念を抱き、乗客たちを救えるのではと考えるが・・・。ダンカン・ジョーンズ監督、93分。


[コメント] ある条件下にある数日前の出来事を、映像装置でリアルタイムに追体験(観察するだけ)しながら大事故の謎を解く映画「デジャヴ」と設定は似ているけど、ソースコードは「20世紀少年」のバーチャルアトラクションに近い感じ(主人公たちの過去を仮想体験でき、遭遇する人物からも反応がある) 。本作の主人公は同じ時間を何度も繰り返すリフレインプレイヤーで、彼が体験する過去は「プログラム」であり、現実には過去の出来事を変える事は出来ないのだ。そりゃそうだろ!! みんなもう死んじゃってるんだから。


ザ・セル」のように犯人の意識に入る訳ではないのに、なぜ犯人や爆弾の事が分かるのか? 1つ気になってしまうと総崩れになりそうな危うい設定の均衡を保つのは、抜け出せない悪夢を強いられる主人公の人間性。心身ともにこてんぱんに痛めつけられながらも、未来のない乗客を救いたいと奔走する姿が、スピーディーでドラマチック。自分が何者であるかを探求し「可能性」にかける強い思いに、観客も全面支援体制の衝動にかられる事まちがいなし。


友人の中身が別人になっている事に気付かない、おとぼけさんのクリスティーナは、コルターが8分間×数サイクルで惹かれるのも当然。自分に惚れていると誤解されそうな癒し笑顔が最強。勘違い男に注意されたし!! 唐突に怪しい言動をするようになる友人(コルター) にそっと寄り添い、どーんと構えて受け止められる大人の余裕。その辺の若い娘とは違う。と思ったら、役どころでは28歳。ウソつけー!! 最後の台詞のカッコ良さにコンチクショーだ。最初は単なる犠牲者でしかなかった乗客たちが、リアルに生きている“その瞬間”の奇跡の高揚感。エンディングのチョイ手前の「この場面」で終わる方が余韻が良かった。繰り返しミッション中にも、もうひと盛り上がり欲しい。どうでもいいが、2階建て列車の天井がびっくりするほど高かった。“警告:このラスト、映画通ほど騙される!” は、「輝け! 2011年度の酷いキャッチコピー大賞」最有力候補。SFファンと映画通の冷笑を買ったと思われる。


■『猿の惑星/創世記 (ジェネシス)』-Rise of the Planet of the Apes- ★★★☆


[ストーリー] アルツハイマーの父親と2人で暮らし、その治療薬の完成を急ぐ神経科学者ウィル(ジェームズ・フランコ) 。1頭のチンパンジーの脳を飛躍的に発達させる事に成功した彼は、臨床実験が却下されると、密かに新薬を持ち帰り父親に投与する。新薬はアルツハイマーの治療以上の結果をもたらしたが、そのチンパンジーは突然暴れたため射殺され、研究の中止を余儀なくされてしまう。ウィルはそのチンパンジーから産まれたばかりの子どもを自宅へ連れて帰り、シーザー(パフォーマンス・キャプチャー/アンディ・サーキス) と名付ける。


それから5年後。人間の子どもより高い知能を持つシーザーは、与えられた自由に疑問を抱きながらも、ウィル親子と平穏に暮らしていた。しかし、ある事情で隣人に暴行し、大型類人猿保護施設へ送られてしまう。飼育員(ハリポタのドラコ) から屈辱的な扱いを受けるなか、自らのアイデンティティに悩み、自由な意思に対する心の変化がおこる・・・。ルパート・ワイアット監督、106分


[コメント] 文明をもった猿が、言葉を失くした人間を支配する世界「猿の惑星」の起源を描く。「猿の惑星」の時のチンパンジーは、言葉(英語)は話すものの、教養は大した事がないって感じだったけど(どの口が言う! )、今度のチンパンジーは凄すぎる。新薬二世であるシーザーは、思考も洞察力も統率力もピカイチ。ウィルと動物医キャロライン(「スラムドッグ〜」のヒロイン) との仲まで取り持ってくれる気の利きよう。おせっかいオバちゃんか!! 愛する者には限りなく気遣うが、ロクデナシにはふさわしい報いを与える。コワー!!


私もこの新薬を注射して今すぐ頭を良くして欲しい。って、ちゃんと映画を観たのかお前は!! バカなコメントで申し訳ない。新薬の効果も早かったが、物語の展開上接種が容易となる新薬改良バージョンの即効性には仰天必至。ともかく、こんなに頭が良くては、自分本位の愚かな人間に失望するのも仕方なかろう。ティム・バートン版も着ぐるみだったチンパンジーは、今回はフルCGのモーションキャプチャー演技バージョン。一切の説明要らずのシーザーの目ヂカラは雄弁で繊細。わずか数年で、いきなり人間との境界が曖昧になってしまっていて驚く。窓を描き、そして消す場面とゴリラとの別れの場面はやりすぎ。


あまりにも視点がチンパンジー寄りで、分かり易い傲慢なキャラクターが要所に配置される人間ドラマは極薄。ウィルと父親のエピソードもない。誠実で公平な人間であるかのようなウィルは、とんだ食わせ者。アルツハイマーの父親を自宅に1人残し仕事へ行く、新薬を持ち出す(研究所のセキュリティーがありえん)、それを父親に投与し監視しない、保護施設に懸念を抱きながらものシーザーを放置、パワーアップした新薬を持ち帰る、なんと、それが減っていても気付かない。あの状況で仕事を辞めてしまう。お前が全ての元凶か!! 涙の別れをしている間に、もう全てが間に合わない。責任をとって殺しとけ!! 散々な目に遭う隣人のパイロットがお気の毒。指は怪我してるし、具合が悪いのに仕事行っちゃダメだろう。続編を示唆するエンドロールで、日本にも脅威が。「続・猿の惑星」の設定はスルー?


■『カウボーイ&エイリアン』-Cowboys & Aliens- ★★★


[ストーリー] 1873年アリゾナ。大きな腕輪をはめた男(ダニエル・クレイグ) が、荒野で目を覚ます。一切の記憶を失くしていたが銃は凄腕で、牧場主のダラーハイド大佐(ハリソン・フォード) が牛耳る小さな町へ辿り着く。住民たちは余所者を警戒するが、神父は男の傷の手当をし、謎めいた美女エラ(「Dr.HOUSE」の13番ことオリヴィア・ワイルド) は意味深長な言葉で近づく。


ほどなくして、男がダラーハイドの恨みを買う賞金首、ジェイク・ロネガンだと判明。逮捕され移送手続きの最中、飛行物体の群れが襲来した。その時、ジェイクの腕輪が青い閃光を放ち、飛行物体を撃墜するが、多くの住民が連れ去られてしまう。息子を拉致されたダラーハイドは、使用人の精鋭を引き連れ、保安官の孫エメット(「エアベンダー」の少年)、エラ、酒場主人のドク(サム・ロックウェル)、神父らとともに謎の侵略者を追跡し、ジェイクも失われた記憶を取り戻すため同行する。途中、アパッチ族(アダム・ビーチ)や山賊たち(「ザ・シールド」のシェーン) を仲間に引き入れるが・・・。ジョン・ファブロー監督、118分


[コメント] アメリカで絶大な人気を誇る伝説のグラフィック・ノベルを完全映画化。タイトルからして楽しいSFアクション西部劇。なんたって、どんな組み合わせよ? のカウボーイとエイリアン。いちいち1本釣りで地上の人間を引き上げていくエイリアンは、クローバーフィールドのミニチュア版のような、最近流行の容姿がガッカリするけど、俊敏で残虐。圧倒的な破壊力の光線を放つ飛行物体でわんさか飛んで来る。対するカウボーイチームは、敵か味方か分からないカウボーイと、頑固ジジイたち、女、子供、犬を含むはみ出し者の寄せ集め。武器は馬と銃とダイナマイト、後半の助っ人の弓矢。ワクワクするー!!


こういう突拍子もない設定にもハリソン・フォードはピタリと収まる。走る姿はドテドテと足下がおぼつかないけど大丈夫か、カウジジイ。独善的だとか、なんだーかんだー悪役のフリは最初だけで、美味しい所を全部かっさらって、見せ場を根こそぎ持っていく。主役のダニエル・クレイグは寡黙なキャラクターで、ひとりだけ鋭い緊張感を放ち、エイリアン以上にこの映画から浮いていた。記憶喪失でも次々と敵を倒し、謎の腕輪すらあっという間に使いこなす。ジェイソン・ボーンばりの強さで敵を蹴散らす。何か特別な事をやってくれそうな期待感があったけど、結局はただの殺し合いと化す決戦の場面が長くてダレてしまう。エイリアンは身体能力もテクノロジーも優れている問答無用の侵略者なのに、相も変わらず強いのは最初だけ。自らの弱点を忘れてしまったか、バルサンでいぶり出されるゴキブリさながらに、クライマックスで突然マヌケになる。

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