6月鑑賞の映画感想

■『ロシアン・ルーレット -13- ★★★


[ストーリー] 大怪我で入院中の父親の治療費の為、母親と姉、5歳の妹と暮らす自宅を担保に入れた青年ヴィンス(サム・ライリー)。仕事で出入りしていた豪邸の主人の「大金が1日で入る仕事」を盗み聞きしたヴィンスは、彼宛の手紙を持ち出す。組織の全貌を暴くため豪邸を張り込んでいた刑事(デヴィッド・ザヤス) はヴィンスを尾行し、謎の相手と連絡を取ったヴィンスの元へ「13」の番号札が届く。逃げ出せない状況になり知ったその仕事とは、アンダーグラウンドで行われる、多額の賞金を懸けた集団ロシアン・ルーレットのプレイヤーとなる事だったのだ。


メキシコの刑務所から拉致された服役囚(ミッキー・ローク) や、弟(ジェイソン・ステイサム) が強引に病院から連れ出して参加させた重病の兄(レイ・ウィンストン) など、ヴィンスを含む17人の番号をつけたプレイヤーたちが円になる。やがて第一ラウンドの始まりを知らせるアナウンスがあり、1丁の拳銃と1発の銃弾が手渡され、前に立つ者の後頭部に向けて引き金を引くが・・・。ゲラ・バブルアニ監督自身のデビュー作「13/ザメッティ」をリメイク、97分


[コメント] 本当に大金が手に入ると信じる主人公の頼りなさにハラハラ!! カイジを読んで出直してこい。家を失ってもいいだろう。何を贅沢言ってんだ。私なんか賃貸暮らしなのに!! そんな旨い話があるワケがないのに、父親を思う主人公の優しさが自宅を失うワケにはいかないのだ。ゲームはオーナーが1人ずつプレイヤーを出すシステムで、プレイヤーが死ねば、オーナーは賭け金を失う。ゲーム進行役の男のスタートの合図(とは違うんだけど) が、アタックチャンスばりに芝居がかった溜めが長く、サム・ライリーの大きな眼が、こぼれ落ちそうなほど見開いて汗だらだら!!「運だけではない」結果も絶妙な緊迫感をもたらす。


自分で自分の命を守れないシンプルなゲーム設定、紳士的だが冷酷で無関心のオーナー、いわくあり気の(結局ないんだが)プレイヤーのキャスティングの豪華なインパクトで、「主人公が最後まで生き残るしかありえない」という展開に、しっかりと緊張感を保つ。もっと、もっと面白くなったはずなのに勿体ない。人物の背景など一切の説明がなく、特に刑事は酷い。「トゥルー・ブラッド」でクールなヴァンパイア演じるアレキサンダー・スカルスガルドが、ヴィンスの付き添い役で出演。何かやってくれそうな雰囲気を漲らせてそれっきり。プレイヤーを代えて続編を作りそう。


■『BIUTIFUL ビューティフル -Biutiful- ★★★★☆


[ストーリー] スペイン、バルセロナ。不法移民のブローカーと葬儀場での霊媒を細々とこなし、幼い娘と息子を1人で育てるウスバル(ハビエル・バルデム) は、体調不良で検査を受け、余命2ヶ月と宣告される。死を受け入れられずにいたウスバルだったが、かつて家族を振り回した双極性障害の妻には事実を隠したまま、再び家族で暮らそうとするが・・・。アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ監督、148分


[コメント] まず、タイトルの“BIUTIFUL”は、スペルミスではないです。余命2ヶ月と突然言われても、新しい注射針を使う事に固執し、腹は減るし、金も要る。ありがちな設定ではあるけど、思う通りにはいかない人生の痛恨で葛藤するウスバルの、自身の父親への理解が子どもとの絆をもたらす過程が丁寧に描かれる。家族で過ごす平凡な日常や、不法移民への矛盾した関わり、僅かでも子どもたちの希望となるものを求める焦燥感など、命の終わりを前にした人間のごく当たり前の感情が、受け入れられなかった死の準備となる。ウスバルがある家電を購入した時点で観客には先が読めるが、市民とは壁一枚隔てた裏通りに生きる者には、それ以上の末路が突きつけられる。クライマックスのセルビア人女性の返事は、薬で朦朧としたウスバルの願望による幻聴か、彼女の良心による現実なのか。結局、何ひとつ問題は解決していないのだけど、ある人物に導かれて穏やかな気持ちでエンドロール。イケメンのウスバル父ちゃんが、出番は僅かながらその佇まいが印象深い。福笑いの顔みたいなハビエル・バルデムとは赤の他人にしか見えん。ボロいアパートで家族が囲む誕生日ケーキに立てた、ドラゴン花火かと見紛う火花を散らす花火にギョッとし、尻を胸のように演出するケツチチ・バー(勝手に命名) にも驚いた。


■『スカイライン -征服-』 -Skyline- ★


[ストーリー] ロサンゼルス、午前4時27分。音もなく、空から幾筋もの青白い光の柱が地上へ降りた。親友で人気俳優のテリーに招かれカリフォルニアから訪れた、ジャロッド(エリック・バルフォー) と恋人エレイン(スコッティー・トンプソン) は、最上階のペントハウスのブラインドから洩れる眩い光と、不気味な振動に目を覚ます。隣の部屋で眠っていた男の姿は消えており、確かめようとしたジャロッドの身体にも異変が起こる。その青い光を見た者は、一瞬にして光の中へ吸い込まれてしまうのだ。夜が明け屋上へ上がった者たちは衝撃の光景に呆然と立ちつくす。それは、巨大な未確認飛行物体の青い光に吸い上げられていく、無数の人間たちの姿だった。最上階にいた5人は僅かな望みをかけて、マリーナへ向けて車で脱出を試みようとし、3日目にはついに軍隊が出動するが・・・。コリン・ストラウス、グレッグ・ストラウス監督、94分



[コメント] これは予想と覚悟を遥かに超えた奇跡の珍作。1時間半にも及ぶ長い予告編を観ているかの如く、物語が全く展開しない。地球規模の絶望的な極限状況を前に、不屈の英雄や自己犠牲の人類愛のない、平凡な人たちの姿を通して描かれる冷徹なリアリティ、というコンセプトらしいが、いくら平凡な人たちだってホントに何もやってくれないので心底驚いた。生死がどうでもいいと思えるほど、何の感情も伝わってこない。マトリックスにそっくりのマシン、ID4、宇宙戦争クローバーフィールドなどどこかで観た事のあるような映像、主要人物6人のうっすいキャラクター、強かったり弱かったりワケが分からない征服者に観ていて困り果てた。更に追い打ちをかけるショボいエンディングには失笑。疲労で複雑な物語を追う自信のない時、睡魔で集中できない時、何も考えずにボーッと観ていたい時、恐ろしく詰まらなかったと聞くや観ずにはいられなくなる人、誘引灯の青い光に吸い寄せられてしまう人、イカ釣り漁船に一本釣りされるイカに感情移入してしまう人限定で鑑賞すべし。


■『パイレーツ・オブ・カリビアン 生命の泉』-Pirates of the Caribbean: On Stranger Tides- ★★☆


[ストーリー] キャプテン・ジャック・スパロウを名乗る者が、乗組員を集めて、呪われた“生命の泉”を目指す航海に出るという噂がロンドンで広まっていた。かつて愛して捨てた女海賊アンジェリカ(ペネロペ・クルス) が黒幕だと知ったジャック(ジョニー・デップ) は拉致され、魔術を使って船とゾンビを操る史上最恐の海賊・黒ひげ(イアン・マクシェーン)の海賊船「アン王女の復讐号」で目を覚ます。航海士であるアンジェリカは、ジャックが持つ、持ち主が望むものへと導く<北を指さない羅針盤>で、黒ひげを“生命の泉”へ連れて行けと命令する。時を同じくして、英国王に忠誠を誓い海軍将校となったバルボッサ(ジェフリー・ラッシュ) は、軍艦プロディデンス号の船長に任命され、“生命の泉”の場所を知るジャックの元仲間ギブス(ケヴィン・R・マクナリー) を連れて出航する。黒ひげに捕われていた若き宣教師フィリップは、“生命の泉”の飲む際に役立つため監禁された人魚シレーナを救おうとするが・・・。ロブ・マーシャル監督、137分


[コメント] エンドロールで既に内容が思い出せないくらいだった2作目と3作目に比べれば、新シリーズとなる4作目は若干の持ち直しを見せた。過去作を観ていなくても問題なし。見せ場のための無理矢理なエピソードの連続で、どうしても三つ巴の構図にしたいらしい。要となるはずの黒ひげの印象が薄すぎる。バルボッサが義足に隠していたものを出す場面には思わずニヤリ。フレッシュな魅力のフィリップ&シレーナは、時間がないのでかなりあっさり。今作限りなのか次作以降も出るのか、かなりいい加減に姿を消した。ビジュアルのインパクトが強烈だったのが、豹変する人魚たちの襲来場面。ここだけホラーのノリで、鮫よりタチの悪い凶暴な人魚がサイコーにエキサイティング。スピンオフで人魚の映画を作ってほしい。


■『X-MEN:ファースト・ジェネレーション』-X-Men: First Class- ★★★★


[ストーリー] 1944年、ポーランド強制収容所で母親を失った少年エリック(後のマグニートー) は、激しい怒りにより磁場を操る能力が覚醒する。同じ頃、ニューヨークの豪邸(※)で暮らす、テレパスの少年チャールズ(後のプロフェッサーX) は、1度目にした人物に自在に姿を変える事ができる、青い肌の少女レイブン(ミスティーク) と会い、遺伝子の突然変異による超能力を持つ者たちの出現を確信する。(※)テキトーに言って東京ドーム2個分くらい。


1962年、元ナチスの科学者ショウ(ケヴィン・ベーコン) が率いる、邪悪なミュータント軍団“ヘルファイヤークラブ”の暗躍に気付いたCIA職員モイラ(ローズ・バーン) は、遺伝子学の教授に就任したチャールズ(ジェームズ・マカヴォイ) に協力を求める。ショウの目的を探るチャールズは、単独でショウを追っていたエリック(マイケル・ファスベンダー) と出会い、2人は異なる信念を抱きながらも友情を深め合う。ミュータントの科学者ハンクの開発した「セレブロ」で、世界各地の若きミュータントたちを見つけ出したチャールズとエリックは、能力を隠して生きる彼らを仲間に誘い訓練を開始、ショウの野望を阻止するため出動するが・・・。後に、ミュータントと人類の共存を望む“X-MEN”と、人類を支配しようとする反社会的な”ブラザーフッド”を率いて宿敵同士となる、プロフェッサーXとマグニートーの若き日の出会いから友情、決別までを描く「X-MENシリーズ」5作目。マシュー・ヴォーン監督、131分


[コメント] 邪悪な感情を生み出すものを描いた始まりの物語なので、過去の「X-MENシリーズ」を観ていなくても全然大丈夫。シリーズを観ている人なら、人間の強さやもどかしさによる選択が、敵対しながらも複雑な信頼関係を見せる、プロフェッサーXとマグニートーのキャラクターへと見事に繋がるので必見。チューするんじゃないかってくらい絆を深めた2人の、友情を残したままのほろ苦い決別の余韻が後をひく。主演の2人が抜群で、シリーズ最高の面白さ。


裕福ではあるが両親不在で育った優等生のチャールズと、深い傷を負ったまま大人へと成長したチョイ悪エリック。チャールズは対等の立場で、暗闇の淵でもがいていたエリックの痛みに寄り添い、新しい力へと導き、生きる意味を与える。敵対したまま爺さんになる未来が分かっていても、最後まで自分の信念を捨てなかったチャールズと、根底の人間不信を引きづり続けたエリックの決別がじんわりと心に沁みる。人類に希望を持つチャールズの孤独はX-MENという疑似家族をつくり、人類に絶望したエリックの孤独は、ありのままの自分を肯定する者とともに別の居場所を選ぶ。ローガンと大人ミスティーク(レベッカ・ローミン) がカメオ出演。という事は、始まりの物語だけど「ウルヴァリン X-MEN ZERO」よりは後の話という事だろうか。ミュータントの訓練や活躍場面は楽しいけど、見た目が人間と変わらず、日常生活に支障のない優れた戦闘能力を持つ者揃いという点は出来すぎた。あと、ヘルファイヤークラブのメンバーは鞍替えが早すぎ。