5月鑑賞の映画感想

■『アジャストメント』-The Adjustment Bureau- ★★★★☆


[ストーリー]庶民的で誠実な人柄が人気のニューヨーク州上院議員の若手有力候補デヴィッド(マット・デイモン) は、やんちゃが過ぎて落選。偶然出会ったバレエダンサーのエリース(エミリー・ブラント) に傷心を救われ、互いに運命の相手だと直感した2人はキスを交わす。アメリカ人早っ!! 人類を正しい方向へ導くため監視し、思考や行動を操作する「アジャストメント・ビューロー(運命調整局)」のハリー(アンソニー・マッキー) は、“乗せてはならないバス”に、デヴィッドを乗車させてしまう。


車内で再びエリースと会えたデヴィッドは上機嫌で出社するが、選挙参謀で幼なじみのチャーリー(マイケル・ケリー) が、黒ずくめの者たちの装置で何かされている場面に遭遇する。咄嗟に逃げたデヴィッドは別の場所で目を覚まし、調整員のリチャードソン(ジョン・スラッテリー) から驚くべき話を聞かされる。更には、デヴィッドとエリースは本来出会ってはいけない運命であり、調整局が絶対に引き離し監視を続けると告げられるのだ。それから3年後、再び立候補したデヴィッドは想い続けたエリースを街で見かけ、運命に逆らう事を決意するが、調整局は“ハンマー”の異名を持つ最強の調整員、トンプソン(テレンス・スタンプ) を送り込む・・・。フィリップ・K・ディック「調整班(Adjustment Team)」原案、ジョージ・ノルフィ脚本・監督、106分


[コメント]あまりに予告編を観過ぎて、すっかり本編も観た気になっていたけど、なかなかどうして観て良かった。理屈通りにはいかない不完全な人間の衝動を前に、干渉の影響を最小限に留めるという縛りのある調整員は右往左往し、なんと4年にも渡る大事に。いっぺんだけ2人を会わせとこうというのが甘い。細かい事を全然気にしない私にはかなり面白かった。原作では、主人公は既婚の平凡な会社員で、調整員である「犬」のアクシデントで出社が遅れたため、“調整作業中”に遭遇してしまう、という点が同じくらい。


聡明でユーモアがあるデヴィッドとエリースが魅力的で、ほとんど予告編で観ちゃってるけどアクションも満載。とにかく走る、走る、走りっぱなし。エリースに関わるある人物があまりにお気の毒なんだけど、完全スルー。しつこいまでのデヴィッドの愛が嫌味にならず、結ばれるのか諦めるのか、結ばれるのか諦めるのか、結ばれるのか諦めるのか!! 観客の誰もがツッコミを入れたと思われる「どこでもドア」をくぐり抜ける調整員たちが、あたふたと翻弄されるシーンが楽しい。


■『100,000年後の安全』-Into Eternity- ★★★


[内容]世界中のいたるところで原子力発電所から出される、大量の高レベル放射性廃棄物が、暫定的な集積所に蓄えられている。自然災害・人災・及び社会的変化の影響を受けない、地層処分という方法が発案された。フィンランドのオルキルオトでは、世界初の高レベル放射性廃棄物の、永久地層処分場の建設が決定し、固い岩を削って作られる地下都市のようなその巨大システムは、10万年保持できるように設計されるという。建設中の最終処分施設「オンカロ」の内部映像と、このプロジェクトの実行を決定した専門家たちへ、未来の安全についてインタビューする。マイケル・マドセン監督、79分


[コメント]廃棄物が一定量となる100年後に施設を永久に閉鎖した後、6万年後に訪れるという氷河期を経て、文化も言語も予測できない10万年後の人類に、その危険性を伝える手段はあるのか? 考古学的な好奇心や、宝探しを目的に処分場を掘り起こさないよう、 未来の地球の安全を問いかけるドキュメンタリー。「BS世界のドキュメンタリー」でも短縮版を放送。映画は字幕を読むのが忙しくなっちゃったので、吹き替え版だった番組の方が分かりやすい。10万年後の人類に確実に伝わるイラストや記号を模索するのはとても興味深いけど、いくら何でも10万年後の心配をするのは遠すぎた。


■『アンノウン』 -Unknown- ★★★★


[ストーリー]米国人植物学者のマーティン(リーアム・ニーソン) は、学会に出席するため愛する妻リズ(ジャニュアリー・ジョーンズ) を連れてベルリンを訪れる。1人でタクシーに乗ったマーティンは交通事故に遭い、記憶が不完全なまま4日後にホテルへ戻るが、リズは初めて会う人のような顔で彼を知らないと言う。彼女の側にはマーティンの名を名乗り、身分証明書と新婚旅行の写真まで持つ見知らぬ男がいたのだ。言葉も通じず、所持品は僅かな現金と携帯電話、そして一冊の本だけ。自分の正気を疑い街を彷徨うマーティンはやがて、不法移民の女性タクシー運転手(ダイアン・クルーガー) や、元東ドイツの秘密警察の老人(ブルーノ・ガンツ) の助けを借り、自分を取り戻すため真相を追求する・・・。ジャウム・コレット=セラ監督、113分。


[コメント]自分は何者なのかを問う前半から一転、中盤以降はオヤジ版ジェイソン・ボーンになってアクション全開。事故で記憶が抜け落ちている主人公の、いちいちゴリ押しするキャラクターが憎めなくて面白い。個人では到底なし得ない徹底的なアイデンティティの否定は、ジュリアン・ムーア主演「フォーガットン」と全く同じだけど、こちらは陰謀の裏の裏の裏の裏を暴くうちに、無難な表のオチになっちゃったような感じで。


■『スコット・ピルグリム VS. 邪悪な元カレ軍団』-Scott Pilgrim vs. the World- ★★★


[ストーリー]カナダのトロントに住む22歳のスコット・ビルグリムは、アマチュア・バンド「セックス・ボブオム」のベーシスト。彼女に捨てられてから1年、新しい彼女は17歳の中国人の高校生ナイブス(エレン・ウォン) で、同じバンドのドラマーである元々カノのキム(アリソン・ピル) やリードシンガーのマークとともに、メジャー・デビューをかけた勝ち抜きバンド・バトルの練習に励む日々。


波長のバッチリ合うナイブスと楽しい日々を送っていたスコットはある日、赤毛がイケてるラモーナ(アリー・エリザベス・ウィンステッド) に一目惚れし猛アタックを開始。すぐさまスコットに挑戦状が届く。ラモーナと交際したければ、元カレ7人と戦い全て倒せというのだ。ルームメイトでゲイのウォレス(カルキン兄弟の三男) と訪れた撮影所で、1人目の元カレで人気アクション俳優のクリス・エヴァンスに襲撃されたのを皮切りに、絶対菜食主義者のサイキック野郎や、カイル&ケンの片柳ツインズ(斉藤慶太斉藤祥太) など、超能力を駆使する邪悪な元カレ軍団とところ構わず戦うハメになる・・・。ブライアン・リー・オマーリーのコミック「Scott Pilgrim」原作、エドガー・ライト監督、112分


[コメント]って、どんなあらすじなんだ。いちいち突拍子もない展開なんだけど、押さえる所はビシッと押さえて、ホッと胸を撫で下ろすエンディング。天真爛漫なナイブスがキュートな魅力を放ち、どんだけ変や男と付き合ってきたんだか謎だらけのラモーナは、出番も中途半端でいまひとつ勿体ない。


■『ブラック・スワン -Black Swan- ★★★★☆


[ストーリー]引退勧告された看板ダンサーのベス(ウィノナ・ライダー) に代わり、正確な踊りに定評のあるニナ(ナタリー・ポートマン) が、「白鳥の湖」のプリマに抜擢される。振付け師のルロイ(ヴァンサン・カッセル) から、純真な白鳥と魔性の黒鳥の二役を踊るよう求められるが、繊細で優等生のニナは黒鳥を踊る事ができない。大役の重圧に加え、頻繁にみるようになった幻覚に混乱状態に陥ったニナは、身体の傷に神経を擦り減らす。ライバルとなった奔放な新人リリー(ミラ・クニス) に自尊心が傷つき、ニナに過剰な愛情を押しつけてくる元バレエダンサーの母親とも心が離れたまま、舞台初日を迎えるが・・・。ダーレン・アロノフスキー監督、108分。


[コメント]完璧なベスへの劣等感と羨望、ルロイが望む黒鳥を踊るリリーへの焦燥感、多少バカをやりつつ覚醒するプリマのプライドが凄まじい。閉じた世界に生きるニナの心象風景はホラー・サスペンスのカテゴリーかと思うショッキングシーンもあり、少々面食らう展開なので好き嫌いは分かれそう。出ずっぱりでスクリーンに釘付けにするナタリー・ポートマンは見事にはまり役。逆にそれ以外のキャストは平凡。リアルな痛みを想像させる過酷なバレエの鍛錬に、手足の爪が、肋骨が、足の指の間が、アイタタター!! デーモン小暮閣下ばりのメイクで黒鳥を踊るニナの目が強烈なインパクトを放つ。


■『ミスター・ノーバディ』-Mr. Nobody- ★★★★★


[ストーリー]科学技術の進歩により、人間が死ななくなった2092年。不死を選ばず、人生を終えようとしている118歳のニモ・ノーバディ(青年期と118歳/ジャレッド・レト) は、最後に“死ぬ”人類となる。世界中が彼が息を引き取る瞬間を見届けようと、生中継のテレビを見つめる中、病室へ潜り込んだ記者の1人がニモに問いかける。「人間が不死になる前の世界はどんなだったのか」しかし、誰もニモの過去を知るものがいないように、彼自身も過去を覚えてはいなかった。ニモは自らの人生について振り返りながら少しずつ過去を思い出し、記者に語り始める・・・。ジャコ・ヴァン・ドルマル監督、137分。


[コメント]たった80年後の未来がこんな凄い事に!! 顔面タトゥーの医師も殺し屋みたいだけど!! というのは置いといて、母親ではなく父親との暮らしを選んでいたなら? 好きな女の子を遠ざけてしまった言葉を取り消し、気の利いた言葉を言えたなら? 連絡の取れなくなった愛する女性と再び会う事が出来たら・・・9歳、15歳、青年期のニモが選ばなかった出来事と、運命の3人の女性たち(サラ・ポーリーダイアン・クルーガーリン・ダン・ファン) との人生を生きる壮大なバラレル・ワールド。


ミスター・ノーバディ(誰でもない)” 男の本当の人生とは? 小さな選択が結果を大きく変える「バタフライ・エフェクト」と違って、ニモの選択後の人生がまた幾通りも枝分かれし、目まぐるしいスピードで変化していく。なんたって宇宙まで行っちゃうのだ。このエピソードは女を惚れさせるぜコンチクショーだ。人生を重ねて過去を振り返る事が多くなった大人に絶賛お勧め中。心の奥深くに刺さったままの棘を繊細に演じるジャレッド・レトが魅力的で、118歳のユーモアもグッとくる。