4月鑑賞の映画感想

■『エンジェル ウォーズ』(日本語吹替え版) -Sucker Punch- ★★★


母と妹を亡くした20歳のベイビードール(エミリー・ブラウニング) は、色ボケで強欲な義父によってレノックスハウス精神医療施設へ入れられてしまう。5日後にある人物(ジョン・ハム) による処置を宣告された彼女は、残酷な現実から逃れようと鮮烈な空想世界を創り出す。そこで、賢者(スコット・グレン) から授けられた、施設からの脱出に必要な5つのアイテムを手に入れるため、ロケット(ジェナ・マローン)、妹思いのロケットの姉スイートピー(アビー・コーニッシュ)、ブロンディー(ヴァネッサ・ハジェンズ)、アンバー(ジェイミー・チャン) の4人の仲間とともに、自由を手に入れるための闘いを繰り広げる。


ドクター・ゴルスキー(カーラ・グギノ) に、ダンスの才能を認められたベイビードールは着実にアイテムを手に入れるが、残忍な施設長ブルー・ジョーンズ(オスカー・アイザック) が、彼女たちの動きを嗅ぎつける・・・。


という、あらすじはあってないようなもの。二流どころの寄せ集め的にビミョーな美少女5人+敵役のキャラクターが弱く、いまひとつ魅力を感じられなかった。金髪ツインテールの腹出しセーラー服のベイビードールは、日本人には絶望的なほど完璧なヴィジュアルで、謎のユラ〜リ〜ユラ〜リ〜ダンスの肩透かし度は度肝を抜く。虚構と現実を行き来するのかと思っていたけど「バニラスカイ」だったある場面を境に、三段逆スライド方式で悲惨極まりない現実へと回帰する入れ子構造だった。近場のシネコンでは、人気声優ガールズユニット(って何だ?)「スフィア」の日本語吹替え版のみ上映。


■『トゥルー・グリット -True Grit- ★★★★


使用人に殺された父親の亡骸を引き取りに街にきた14歳のマティ(ヘイリー・スタインフェルド) は、先住民族の住む地域へ逃亡し、無法者の一味に加わった犯人チェイニー(ジョシュ・ブローリン) に復讐を誓う。父の形見の銃と馬を手に入れ、“トゥルー・グリット(真の勇気)”があるといわれる隻眼の連邦保安官ルースター(ジェフ・ブリッジス) を雇い、別の容疑でチェイニーを追跡中のテキサスレンジャーのラビーフ(マット・デイモン) と3人で旅に出るが・・・。ジョン・ウェイン主演「勇気ある追跡」(1969年) リメイク。ジョエル・コーエン/イーサン・コーエン監督、110分


小生意気で機転がきく不屈のマティ、酔いどれだが愛情深く頼れるオヤジのルースター、正義感が強くて微妙にマヌケのラビーフという3人の、ありがちなキャラクターのウイークポイントが絶妙。いつも何がしかの才能で優れた人物演じるマット・デイモンのいじられシーンは笑える。チェイニーを見つけてから、ルースターの宿敵で無法者のネッド(バリー・ペッパー) との馬上の銃撃戦まではハラハラ。危機という危機には全て寸でのところで救いの手が差し伸べられてきた甘口が、油断大敵!! マティの愛馬で疾走するクライマックスの星の美しさと、厳しい現実のほろ苦い余韻の切なさが後を引く。ロッテンマイヤーさんみたいになっちゃったマティにはショックでかすぎた。


■『ザ・ファイター』 -The Fighter- ★★★★★


1980年代の米マサチューセッツ州、ローウェル。かつて王者シュガー・レイからダウンを奪った事のある兄ディッキー(クリスチャン・ベール) と、現役ハード・パンチャーの弟ミッキー(マーク・ウォールバーグ) 。街の期待を背負ったディッキーは薬物に手を染め、家族の絆を優先する無知で身勝手なマネジャーの母親アリス(メリッサ・レオ) が足枷となり、ミッキーは負け続けていた。バーで働く聡明なシャーリーン(エイミー・アダムス) との出会いを機に、クレイジーな家族と距離を置いたミッキーだったが、過去と決別したディッキーとともに王座を目指す・・・。名ボクサーのミッキー・ウォードと、彼の異父兄で街の英雄ディッキー・エクランドの実話を基に描いたドラマ。デビッド・O・ラッセル監督、115分。


四方八方に奇天烈で周囲が見えない天才肌の兄を見捨てられず、他者の価値観を認めない強引な母親に振り回される、人情派で地道な主人公の努力と根性ががっちり心を掴む。歯並びまで変えたというクリスチャン・ベールは、アカデミー賞助演男優賞受賞も納得の独壇場で、哀愁のカッパハゲがいちいち目を奪う。細かい笑いを幾度となく挟みつつも、劇中のディッキーに密着した番組の残酷さは切なく、スケ番軍団のような7人の姉妹たちの愚かさには途方に暮れるばかりで、映画が終わりかと思うほどの事件を経て、クライマックスの試合でかぶりつきの高揚と感動。喜怒哀楽に大忙しとなる地域密着型の感動作。エンドロールの実際の兄弟の映像がギャグすぎて和める。


■『ザ・ライト −エクソシストの真実−』-The Rite- ★★


家業の葬儀屋から逃げるように神学校を選んだ米国人のマイケル(コリン・オドノヒュー) は、信仰を見失ったまま卒業を間近に控え、司祭の道へ進むつもりがない事を恩師のマシュー神父(トビー・ジョーンズ) へ告げる。しかし、ヴァチカンで行われているエクソシスト養成講座の受講を強く勧められローマへ向かう。そこで、異端だが一流のエクソシスト(悪魔払い師) と讃えられるルーカス神父(アンソニー・ホプキンス) を紹介され、悪魔払いの儀式で少女の尋常ではない様を目の当たりにしても懐疑的なマイケルだったが、自身の信仰心が揺らぐルーカス神父に異変が生じる・・・。バチカンで実際に行われている悪魔払いの儀式と、それを行うエクソシストをテーマした、マット・バグリオ同名ノンフィクション原案、ミカエル・ハフストローム監督、112分


悪魔憑きは精神的な病気と解釈し、悪魔の存在を疑う主人公の視点で進む前半はまずまず。アンソニー・ホプキンスが出て来てエクソシズムの新しくないショッキング映像と、オカルト・サスペンスの様相を見せる展開が派手な娯楽でもなく、地味なリアルドラマでもなく、1人の青年がエクソシストになるまでを描くというには、ちょっと中途半端だったと思う。見所だと思っていたエクソシスト養成講座の場面は少ししかない。


■『ナルニア国物語/第3章:アスラン王と魔法の島』(2D日本語吹替え版) -The Chronicles of Narnia: The Voyage of the Dawn Treader- ★★★★


ペベンシー家の長兄ピーターと姉スーザンがアメリカに滞在している間、親戚の家に預けられていた次男エドマンド(スキャンダー・ケインズ) と末っ子のルーシー(ジョージー・ヘンリー) は、ナルニアでの冒険の日々へ想いを募らせていた。


ある日、兄妹と偏屈な従兄弟ユースチス(ウィル・ポールター) の3人は絵画から溢れ出た海へ飲み込まれ、カスピアン王(ベン・バーンズ) やネズミの騎士リーピチープらが乗る帆船「朝びらき丸」へと導かれる。ナルニア暦で3年が経過しており再会した彼らは、行方不明の7人の貴族の消息を求めて東の海を目指す旅で、心の底の恐怖を映す邪悪な霧の向こうへ消えたナルニアの民の存在を知る。彼らを救うため散り散りになった7本の剣を探しに行くが、欲に目が眩んだユースチスはドラゴンへと変えられてしまう・・・。C・S・ルイス「朝びらき丸 東の海へ」原作、マイケル・アプテッド監督、112分


争いの場面に時間を割いていた前2作品と比べて、キャラクターの成長と冒険に焦点を絞った今作品が1番面白い。それぞれが劣等感の対象に自分で答えを出し、欲望や恐怖に打ち勝ち困難を乗り越える冒険ファンタジーが徹底している。中でも、カバ系の鼻の穴が特徴の愛すべきキャラクターのユースチスの成長ぶりには、親戚のオバチャンになったみたいに感動的。これぞ、子どもに観て欲しいと思う映画って感じ。あちこち寄らないといけないので駆け足感は否めないけど、112分という若干短めの尺でうまくまとめたと思う。前作で出番の度に頭を抱えたくなる演技でどん引きさせた、顔だけ男ベン・バーンズ(カスピアン) は違和感がなくなっていて一安心。ピーターの出演は5秒、スーザン、白い魔女は1分くらい。