ミステリー蕎麦屋

新しいショッピングセンターを1人でブ〜ラブラと歩いていたら、ものすごくお腹が減ってきて、気づけば大行列の蕎麦屋に並んでた。いつの間に!! 腹が減り過ぎて記憶喪失!? お腹が減っているのに、なんでこんなに並んでいる店にしたんだっけ? と考えながら、店名を見てみると、「葡萄」のような「蒟蒻」のような「蝋燭」のような、ゴチャゴチャした漢字がボヤけていてよく見えない。蕎麦屋で葡萄はないか。蒟蒻や蝋燭もないだろ。


待つ人の進み具合はものすごく早くて、ボヤっとしている間にもう店内に入ってる。いつの間に!! メニューの類いが一切ないものの、確か「そば」と「うどん」の2種類だけ。どちらも税込み480円。頑固オヤジの店か、ここは。壁にこの店が掲載された雑誌の記事が貼られいるが、ボヤけていてよく見えない。そう言えば雑誌で見たような気がしてきた。「ミステリー蕎麦屋」とかなんとか。なんだそりゃ。


別の店にしようと決めた時には遅く、カウンター席に案内され座ると同時に「昨夜の夕食は何を召し上がりましたか? そばとうどんと、どちらになさいますか? 」と、にこやかなオバちゃん店員が聞いてくる。「え? おいなりですけど? ・・・うどん下さい」と私。この意表を突き過ぎた展開に気づいたあなたは冷静な人でしょう。


が、私はといえば、ちがうよ〜、思い出せないけど野菜もちゃんと食べてるよ〜と、母親に言い訳するかの如く、うなずいて去って行ったオバちゃん店員の背中に、野菜も食べてますから〜の念を必死に送るも、さっぱり届いてない。


店内を見渡してみるが、他の蕎麦屋との違いは見当たらず、どこがミステリーなのか意味不明。しかも、立ち食い蕎麦屋かよ!! という勢いで、もう私のうどんが運ばれてきた。なんの変哲もない山菜うどん。なんで? なんで山菜うどんなの!! 「昨夜の夕食と重ならないように、お客様は山菜うどんです」とオバちゃん店員。はー? なに言っちゃってんの!!


この店では客が前夜に食べたものに応じて、なにが出てくるのか分からないミステリーの店だった。ホントかよ!! 他の人の食べているものを見ると、天ぷらか、きつねか、カレーか、ちくわの磯辺揚げ。この辺りの貧相なメニューで、何かがおかしいと気づいたあなたも冷静な人でしょう。


が、私はと言えば、おいなりって言ったんだから、きつね以外なんでもいいじゃん!! 天ぷらだろ!! 腹減ってるんだから!! が、しかし、オバちゃん店員は完全無視。コラ、人の話を聞け!! とはいえ、あまりにもお腹が減り過ぎていて、文句言うのも面倒なので黙って山菜うどんを食べる事にした。せめてカレーうどんが食べたかったなぁと思いながら、隣の席の、昨夜の夕食が鮭の塩焼きだった年寄り夫婦を見ると「カレーそば」と「きつねうどん」。ホントに関係があるのか、昨夜の夕食。


まったく食べた気がしないまま会計へ行き千円札を出して待っていると、またもやオバちゃん店員が応対。この店には、このオバちゃん店員しかいない。そして、何故かお釣りが40円。なんで!! 「 1杯だから480円ですよ」と私が言うと「夕食のメニューと重ならないようにする手間がありますので、1杯960円になります。素うどんなら480円ですよ」とさも当然の口調。なにー!? 次の客が払う倍料金を受け取り、私の方をチラリと見て、これだから初めてのお客はイヤなのよと言いたげな呆れ顔。何故か私以外の客たちは知っている。おかしいだろうが!! オバちゃん店員はそっぽを向いたまま、釣り銭を返さない。キィー、人の話を聞け!! 520円返せ!! 天ぷらうどん食わせろ!!


あまりにも腹が減り過ぎて怒りが収まらない私は、店の外で並ぶ人たちに向かって「この店は勝手に山菜うどんが出てくるんですよー」「うどん一杯で960円もするんですよー、詐欺ですよー」と大声で騒ぐ。すると、「知ってますよ」と最前列の女性。


キィー、腸が煮えくりまんじゅう〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!! (心の叫び)


と、怒りに打ち震えていたところで目が覚めた。夢でした。お腹減ってました。
夢を見ていて「これは夢だ」と分かる人がいるというけど、私は全然ダメ。ありえない夢にも誠心誠意、全力で対応しております。この夢も目が覚めて鏡を見たら、釣り銭を返して貰えない悔しさに眉間にザックリと深くシワが入ってた。ああもう、こんなしょうもない事でシワを深くしてどうする。だいたい腸が煮えくりまんじゅうってバカか、私は。