8月の読書感想

『オフシーズン』-Off Season- ジャック・ケッチャム 扶桑社ミステリー 2000年9月(1981年)★★★★


避暑客が去った9月のメイン州、デッドリヴァー。ニューヨーク在住の編者者カーラが休暇をとって借りた家へ、カーラの恋人で俳優のボンクラ男、物事に慎重すぎる彼女の妹、妹の恋人で地味なハンサム男、カーラの元恋人で未練たらたら男、その彼女で脳みそカラッポ女の5人が遅れて到着。その夜、惨劇は始まった。キング絶賛作家の長編デビュー作。


小さな田舎町の隣家から離れた死角の家に立て篭る主人公たちを襲う、容赦のない殺戮描写のつるべ打ち。関わった者たちをその夜以前の人生に戻る事を許さない、極限状況に陥った者たちの人間性に強烈に惹き込まれる。ここまでやっておきながら、某ジャンルにおいて金字塔を打ち立てた映画と同じエンディングなのは勿体ない。エロ・グロ・カニバリズムが守備範囲の人限定にしてしまう間口の極狭さで、そこそこ面白かったけど人には勧めない。R・レイモンの野獣館には及ばず。序文は深く内容に触れてあるので先に読まないように。


闇の子供たち梁石日 解放出版社 2002年11月 ★★★


タイの北部山岳地帯の貧しい村へ男がやってくる。2年前、8才の娘と引き換えに受け取った金でテレビと冷蔵庫を買った夫婦は、3万数千円で8才になったその妹を、再び男に売り渡す。難民キャンプでは警備兵が少女を犯し、先進国の外国人は少年を犯す。売春宿へ売られた幼い子どもたちは、10才前後でエイズで用済みになるまで、ペドファイル(幼児性愛者)たちの性の玩具として飢えと苦痛が続く。エイズを発症した少女はゴミ袋に入れられ処分場へと捨てられる。命からがら生まれ故郷へ辿り着いても、村の疫病神は生きたまま燃やされる。


富める大人の醜悪な欲望に心を殺される子どもたちを救う方法などなく、目を逸らすなと迫る過酷な現実に途方に暮れてしまう前半から一転、現地NGOの日本人女性と、幼児臓器売買を取材する日本人ジャーナリストが中心となる後半は、一気にありきたりの小説になってしまう。江口洋介宮崎あおい主演の同名映画が公開中。

 
襲撃者の夜』-0ffspring- ジャック・ケッチャム 扶桑社ミステリー 2007年4月(1991年)★★


観光シーズンまであと1ヶ月の海岸沿いの避暑地、デッドリヴァー。ある夜、若い母親とベビーシッターが惨殺され、赤ん坊が行方不明となる事件が発生。地元警察は11年前の事件の関係者で、唯一町に残っていた元保安官ピーターズに協力を要請する。惨劇は終わっていなかったのだ。「オフシーズン」続編。


あんな町に住めるかよ!! とは思わないのか、知らないのか、前作の舞台となった町にフツーに住んでいるバカ野郎たちばかりで驚く。直球勝負の阿鼻叫喚の地獄絵図を縦軸に、8才の少年の成長と、前作で重い十字架を背負ったピーターズが人生を取り戻していく、至極マトモな展開が横軸となり進行。バイオレンス色は薄まり、「オフシーズン」を期待するとがっかり。太字の多用と誰が誰なんだか大混乱の名前にイライラする。


老人と犬』-Red- ジャック・ケッチャム 扶桑社ミステリー 1999年6月(1995年)★★


妻を亡くし娘とも疎遠の老人ラドロウが川釣りを楽しんでいた時、現れた3人の少年のうちの1人が金を要求し、真新しいショットガンを突きつけた。彼らを刺激しないよう振る舞うラドロウだったが、僅かな現金しか持ち合わせていないと知るや、リーダー格の少年がラドロウの愛犬の頭を吹き飛ばしたのだ。立ち去って行く少年の笑い声と、理不尽な死を遂げた老犬の亡骸を前に、呆然と立ちつくすラドロウ。裕福な少年の父親のもみ消しや、経費の嵩む軽犯罪に及び腰の警察に業を煮やしたラドロウは、彼らの行為への正当な裁きを求めて立ち上がる。


少年たちを1人ずつ血まつりに上げていく必殺処刑人ジジイかと思ったが、いつまで経っても道理をわきまえたジジイの行動に拍子抜け。とはいえ、凶悪化する少年犯罪とか問題を抱える家庭には全く立ち入らず、やりっ放しで大団円となる、一般受けしないB級テイストは健在。地味に映画化されたらしい。原題のレッドは愛犬の名前。


『消えたニック・スペンサー』-The Second Time Around- メアリ・H・クラーク 新潮文庫 2005年5月(2003年) ★★


抗癌ワクチンの開発に心血を注いできた、ジェン・ストーン社社長ニックの専用機の残骸が発見された。しかし、遺体は見つからず、最終段階でワクチンは失敗、彼が多額の資金を横領していた事が発覚する。奇跡を信じて僅かな資産の全てを投資していた癌患者家族や一般投資家たちは、屋敷を放火され怪我を負ったニックの美しい妻リンと社を追求。母親がリンの父と再婚し義姉妹関係の記者カーリーは、ニックの無実と自身の無関係を証明するよう彼女に頼まれ、ニックに惹かれ自らも投資していた事もあり調査を開始。一方、ジェン・ストーン社に投資した事がきっかけで愛する妻を亡くしたネッドは暗い復讐に燃え、カーリーの命を狙う。娘との共著1作を含む長編サスペンス22作目。


果たしてニックは、詐欺師なのか(な、ワケがないが最近のクラークは分からない)、最初の方だけ姿を隠しているだけなのか(2時間サスペンス的にはこのパターンが濃厚)、意表を突いて出番もなく殺されているのか!? ていうか、遺体がないときゃ生きているのがお約束!! それとは知らずに肝心な情報を握っている人間が無駄に空回りし、唐突に主人公に接触してくる魅力的な胡散臭い人間がちらほらしながらも、スピーディーな場面展開とたたみかけるクライマックスが持ち味の、いつものクラーク作品とはかなり違う展開。これが失敗の上に、あまりにも風呂敷を広げすぎて大味になってしまった。


『貯められない女のためのこんどこそ! 貯める技術』池田暁子 文藝春秋 2007年12月 ★


15年働いてきたのに貯金がない現実を直視した著者が、思いつきや衝動買いで散財してきた生活を見直し、オケラスパイラルを脱出するまでを綴ったコミック。中村うさぎの浪費とはベクトルが違う浪費思考で、役には立たないし面白くもないけど目が離せなくなる。先月読んだ「片づけられない女のためのこんどこそ!片づける技術」と同じ展開。