一生に一度体験3

続き。ごちゃごちゃと色が溢れている町並みから、強羅花壇のマイ踏切りを通り過ぎた瞬間、旅館というより大地主の敷地内に入ったような静寂と緊張感。ええーい頭が高いぞ庶民!! と高慢ちきな和風建築ではないけど、看板を出していない料亭風で、宿泊客でなければ二の足を踏む、これぞ上流の威圧感。ロビーもフロントも小ぢんまりしている。携帯は色々な場所で制限されており、小さな子どもも騒ぐこともなく、とても静か。和風でもなく、洋風でもなく、和洋折衷のモダンな美術館のよう。隣の建物は、昭和5年に避暑用に建てられた閑院宮載仁親王の別邸「懐石料理 花壇」。値段だけ覗きに行ってみると、ランチは3,850円から11,000円、夕食は4,400円から16,500円。


“当選者たちの交流を深める”夕食はお部屋食ではなく宴会場で「9時からです」と添乗員。一瞬で19時を9時と間違えたバカだと気づいたが、一同が「えー!! 」とドヨめいたため「あ、7時の間違いでした」と訂正。大丈夫か、添乗員。15時のチェックインまでサロンでお待ちくださいとのこと。他の1組と4人で、彫刻の森美術館へ行く事にした。私と姉のエステは16時からで、もう1組は17時15分から。入場料が100円引きになる割引券を受け取り、荷物を預けて駐車場へ行くと、ベンツのドアを開けて待っていてくれた。ベンツ!! 「お金取られませんよね・・・」と一緒に行く女性がポツリ。いやいや、これは無料でしょうよ〜。・・・うそうそ、お金を取るなら先に言ってね。内心ドキドキしていたら無料だった。ふぅ、庶民の常識が通じない旅館は何が起こるか分からない。徒歩でも15分の距離だけに、快適な乗り心地を堪能する間もなくあっという間に到着。停車するやいなや、4人とも一斉にドアを開けてドカドカと降り、運転手がくるりと優雅に外へ出た時には、もうみんな車から出た後。ドアを開けてくれるんだ!? ああもう、懸賞当選の庶民4人なんですみません。


ところで、一緒に行ったわけではないけど、姉も私も彫刻の森美術館を訪れるのは20年ぶり。2人ともすっかり忘れていたが行ってみて記憶復活、ここは真夏に行くトコじゃなかった。展示物はみんな屋外で、日陰はほとんどなくモーレツに暑い!! 強烈な日差しと地面の照り返しで、汗だくだくだくだくの縮むほど暑く、気持ち良さそうな足湯があったので入ってみたら、お湯も熱くて茹でダコ状態。我慢大会かよ!!


芸術心がさっぱりないので、取りあえず名前を知ってるものを観ようと「ピカソ館」へ。子どもか!! だいたい1時間くらい散策し、入口の喫茶店で健康ジュース(アロエ&グレープフルーツ)を一気飲みして、迎えに来てくれるように旅館に電話。ピューっとベンツが迎えに来てくれた。で、停まるか停まらないかといううちに自分でドアを開けてドカドカと乗り込み、旅館に着いて自分でドアを開けてドカドカと降りて閉めてから、急いで優雅に降りた運転手のアチャーな表情を見て、開けてくれるんだったと思い出した。あうー。


仲居さんがフロントから部屋まで案内しながら館内設備の説明。満面の笑顔の下の塵ひとつ見逃さないスルドイ眼光は、仲居歴40年の仲居頭とみた。多分、女将より威張ってるに違いない。ホントかよ!! エステルームや売店、サロンと説明が長く、聞き逃してしまったかと思い「大浴場はどこですか〜?」などどアホ丸だしで話の腰を折ったため、「これからご説明させていただきます」と、若干イラつかせいしまった模様。せっかちですみません。


エレベーターホールには別の仲居さんが待機していて、エレベーター内の床には白い菊の花が置いてある。不吉な!! じゃなくて、強羅花壇のロゴにもなってる菊の御紋章をイメージ。そして、部屋に入って何に驚いたって、添乗員がバスの中で話していた「(今回の懸賞の)ブランド製品がお部屋にご用意してありますので、是非お持ち帰りください」と言われていたモノが、テーブルの上にどどーん。うそー!! サンプルやトラベルセットではなく、レギュラー製品が5つも入っており、自宅で計量したら1人分で1.5キロもあった。嫌がらせかよ!! とはいえ、置いて帰るなどという勿体ない決断が下せる訳がなく、翌日、バスに乗り込む他の人たちを見ていたら、全員持って来ていた。


気を取り直して、案内してくれた推定仲居頭から、この部屋の担当の別の仲居さんに代わり、熱いおしぼりと、お茶と「今月のお着き菓子」を用意してくれる。写真、写真、写真!! 青梅を丸ごと使った甘くて酸っぱくて白あんのような食感の涼しげなお菓子で、梅だけにうんめー!! 失礼しました。種が入っているのであわてんぼうは注意されたし。旅館内売店にて6個1,575円で販売。実家の母が作ったおにぎりを義兄が食べたら、種が入っていたため歯が欠けたそうだ。種は抜いてくれよ、お母ちゃん!!


部屋は「スタンダード和室(檜内風呂付き)」で、トイレにはスリッパじゃなく草履。草履!! が、この草履は鼻緒が堅くて結局使わなかった。檜の内風呂は広く、清潔で気持ち良さそう。洗面スペースでアメニティグッズチェーック!! RMKのローション、洗顔料、クリーム、美白マスク、綿棒、コットン。RMKは使った事ないけど、ジェルシートの美白マスクが嬉しい。当然お持ち帰り。羽毛の枕のようにぷっくり膨らんだふっかふっかの座布団に座り、時代劇のような肘置きに片肘ついてお殿様気分だ。よいではないか、よいではないか。そりゃ大黒屋か。


フェイシャルエステの時間の5分前に迎えに来てくれるというので、まったりのんびりお菓子を食べていると、仲居さんが浴衣などを持ってきてくれた。館内用の履物は下駄で、足袋靴下ときんちゃく袋も用意されている。安い旅館はビニール袋なのに布製。お持ち帰り、お持ち帰り。後で売店で見たら、きんちゃくは500円だった。ホントかよ!!


仲居さんに案内されながらロビーへ行くと、エステティシャンが待ち構えていてエステルームへ。滑舌悪く、大ハズレ感が漂う添乗員がバスで説明してくれたところによれば、「アロマテラピーエステティック、素肌再生のどれか選んでくださいね」ということだ。それだけで選べるか!! コースを決めていなかったため、エステルームの待合室でショウガ茶を飲みながら説明を聞く。ショウガ茶は濃厚で後味すっきり。相当美味しい生姜を使ってる。


アロマテラピーは、無農薬・有機栽培のハーブを使った香りのマッサージ。エステティックは体調や肌に合わせたコース、素肌再生は動物性プラセンタ又は植物性プラセンタを用いて皮膚細胞を活性化。心は素肌再生に決まっていて、姉とうんうんと頷き合っていると、私たちが受けられるのはアロマセラピーエステティックのみ。期待させやがって添乗員のヤツめ!! 差額4千円を払えば素肌再生でも良かったらしいが、私たちはエステティックコースに決めた。


10畳ほどの個室にアロマオイルが漂っていて、ゆかたを胸元まで下げてベッドへ。「こちらへは社員旅行ですか?」とエステティシャン。自腹で来ていない庶民オーラが大放出だったらしい。クレンジング→フェイシャルマッサージ→指先から腕のマッサージ(あまりの気持ち良さにお腹がグーグーグーグーグーグー鳴り通し)→肩からデコルテをグイグイと恐ろしく気持ちの良い強さでマッサージ(昨日から何も食べてないのではなかろうかというほどの腹の鳴りっぷり) →首を横へ向けグリグリグリグリと丁寧にマッサージ(あまりの腹の鳴りっぷり「マッサージすると血行が良くなるのでお腹が鳴るんですよ」と気を使われる始末。ホントかよ!!)→肩、デコルテ、首を丁寧にマッサージ(涎を垂れ流しで爆睡)→顔のマッサージ→顔のパック→60分終了。今まで100回くらいフェイシャルエステをしてもらってきた中で、マッサージに関してはココはサイコーに気持ちいい。至福のひとときでございました。ああもう、足とか腰とか頭とか揉んで欲しい。


すっかり腑抜けと化し部屋へ戻ると、全部の指先にあった「ささくれ」がしっとりくっついていて心なしか細っそり? 手の甲も腕もスンゴイ透明感。写真、写真、写真!! トイレに入った後に1回だけ使った洗面所のタオルが、新しいものに変えられていたため驚いた。ホントかよ!! 恐るべしおもてなしの心に、ホントかよ大連発だ。バシャバシャと飛んでいた水周りもキレイに拭いてあり、お茶も片付けられてる。夕食まで2時間あるので大浴場へ。「全て用意されているので手ぶらでどうぞ」と仲居さん。途中、浴衣の襟が内側に折れ込んでいたのに気づかず、すれ違いざまに仲居頭が目ざとく見つけ「お直しします」と直される。あまりの貧乏くささに目を付けられながら、続く。