5月の読書感想

『血と暴力の国』 -No Country for Old Men- コーマック・マッカーシー 2007年8月★★★★


1980年代のテキサス。メキシコ国境近くの砂漠でハンティングしていたヴェトナム帰還兵のモスは、銃撃戦の果ての生々しい凄惨な現場で大量のヘロインを発見。付近を探しまわり、それがどういう事態を招くか知りつつ200万ドルの入ったトランクを自宅へと持ち帰る。


その夜、瀕死の傷を負っていた男の姿が脳裏にこびりつくモスは、水を持って銃撃現場へ舞い戻るが、メキシコ側の人間に見つかり逃走。アメリカ側の組織もコインの表裏で殺しを決める殺し屋シュガーを雇う。現場近くにあった検査証のはぎ取られた車と、鍵を吹き飛ばされたモスの自宅を調べた老保安官ベルは、圧縮ボンベを携え警官と民間人を殺害した不気味な殺し屋(シュガー)が関わっていると考え、実家へ避難していたモスの妻を説得し2人を追いかける。


「俺は敵を持っていない。敵がいることを許さない」と語り、背景を一切必要としないシュガーの「完璧」なキャラクターと、追跡装置がついていると知らずトランクを持ち歩くが、愚かではないモスの逃亡劇が驚くほど面白い。これがあまりにも強烈だったため、シュガーのような「純粋悪」の存在を前にした、本来のテーマである老保安官の言葉が霞んでしまった。著者の特徴らしく読点が極端に少ない文章が読みにくい。



『諜報作戦/D13峰登頂』-The Ascent of D.13- アンドルー・ガーヴ 創元推理文庫 1971年9月★★★


NATOの新兵器を載せた実験機がソ連のスパイにハイジャックされる。実験機は撃墜されパイロットは脱出するが、機体はソ連とトルコの国境にまたがる未登峰のD13山頂に墜落した。よりによってそんなところに!! 新兵器がソ連の手に渡るのを阻止するため、たまたま休暇でトルコに滞在していたイギリスの有名な登山家ロイスと、トルコ勤務の米国軍人ブローガン大尉の2人は、悪天候の続く情報皆無に等しい極寒の雪山で登頂を開始する。


主役レベルの吸引力でガッチリ心を掴んだ実験機のパイロットが早々にお役御免となり、なんてもったいない事をするんだコンチクショーと思っていたが、それ以上に魅力を放つ正確無比なロイスと、任務第一男ブローガンのオヤジ2人の決死の登頂劇に興奮。ソ連側の精鋭チームとの遭遇場面や、なんでそんな展開に!! と大きく事情が変わる下山のタイムリミットに激しく不満はあるもののそこそこ面白い。



『モンスター・ペアレント』 本間正人(NPO学習学協会代表理事) 中経出版 2007年12月 ★★


学校で職員室へ怒鳴りこんでくる「モンスター・ペアレント」、病院で不当な要求を繰り返すうえに治療費を払わず居座る「モンスター・ペイシェント」、店先でしつこく難癖をつける「モンスター・カスタマー」など、さまざまな場面に出没し、不当な要求を突きつけ自らの正当性をゴリ押しするモンスターの脅威。そんな彼らに対峙する「知恵」を身につけ、自分自身と組織を守り理不尽な相手に負けない交渉術をアドバイス


「修学旅行についてくる過保護な親」や「プライドの高い有力者」など、ツワモノ揃いの理解不能な思考の渦に飲み込まれ疲労困憊。こんな簡単に解決出来れば苦労はないが、身勝手でトンチンカンな主張を前に「なに言ってんだこのバカは!! 」と即座に脳ミソが拒否反応し全否定したくなる私としては、こういう落ち着いた対応が出来る社会人でありたいと強く願う。



クローバーフィールド/HAKAISHA』 -Cloverfield- 脚本ドリュー・ゴッダード 竹書房文庫 2008年4月★


暗号名“クローバーフィールド事件”
ビニール袋から回収品のビデオカセットを手にした女性が、有益情報か判断するためハードディスクに映像を取り込む。
かつて「セントラルパーク,N.Y.」と呼ばれていた場所“U-477地区”で回収された、民間人ロブ・ホーキンスのビデオに収録された映像。早朝の淡い光の中に映し出されるセントラルパークは、破壊者によって蹂躙されてしまう前の、懐かしい映像だった・・・


2008年5月22日、ニューヨーク。日本への赴任が決まったロブ・ホーキンスの送別会が開かれていた夜、突然の地響きがマンハッタンを襲う。港でのオイルタンカーの転覆、ビル群で炸裂し四方八方に飛んでいく火の玉、忽然と現れた高層ビルと同じ高さの“生物”の襲撃に、ニューヨークの街は壊滅状態となる。軍の猛攻撃にも止められない状況の中、喧嘩別れした恋人が自宅で負傷し身動きの取れないと知ったロブは、ビデオ撮影を続ける親友ハッドらとともに、最も危険なミッドタウンを目指す。


2008年4月公開の同名映画のノベライズ。映画で明かされなかった部分について、少ーしぐらいは書かれているかと思って読んだが一切なく、分かったのは続編がまたもや民間人が撮影したビデオだという事くらい。文章で読んで面白い映画ではなく、映画を観たなら読む必要はないし、映画を観ていなくてもお勧めしない。巻頭にカラーで「破壊者」の姿がバッチリ載っている。