4月の読書感想

『骸骨乗組員』-Skeleton Crew- スティーヴン・キング 扶桑社ミステリー 1988年5月 ★★★★★


メイン州全域を襲った激しい雷雨の爪痕の残る朝、湖の上に重く立ちこめ、風向きと逆に這い進む明暗のない霧に、デヴィッドは言い知れぬ不安に襲われる。付近一帯が停電となり、妻を自宅に残し、幼い息子を連れて買物に出掛けたデヴィッドは、突如、街を覆い尽くした霧のため、80人あまりの客とともにスーパーマーケットに閉じ込められてしまう。霧の中へ入った者は二度と戻らず、その中には“何か”が潜んでいたのだ。コワー!! 「ショーシャンクの空に」「グリーンマイル」のフランク・ダラボン監督で映画化、5月10日日本公開の『ミスト』の原作で、226Pの中編「霧」ほか、短編5作。


短編はどれもいまひとつパッとしなかったが、「霧」だけで1冊分の元が取れるほど面白かった。中弛みもなく、霧から抜け出すために一気読み。狂犬病の大型犬に阻まれ、炎天下の故障車に閉じ込められる「クージョ」の、スーパーマーケット版のような閉塞空間の恐怖と、狂信的ババアの暴走、非日常に対峙した人間の強さと脆さに、エンディングの余韻も大好きだ。映画はシッコちびりそうなクライマックスの接近シーン(あると思うけど) に期待。S・キングのマイベスト15に入る面白さ。って、ビミョーな数字か。


累犯障害者 獄の中の不条理』山本譲司 新潮社 2006年9月 ★★★★


刑務所の中に戻りたかった」と下関駅を全焼させた男、わいせつ目的で女子短大生を刺殺したレッサーパンダ男、自分と同じ「ろうあの不倫相手」を場当たり的に絞殺した男。善悪の判断がつかず、複雑な思考が困難なため犯行を繰り返したり、他者の思惑通りに自白してしまう知的障害者精神障害者たち。刑務所に増え続ける彼らと、服役中に接した経験から、障害者福祉施設支援スタッフとなった著者が、簡単に追いつめられてしまう障害者の犯罪を取り上げ、社会の陰を浮かび上がらせるノンフィクション。


ちなみに、みちのく〜ひとり旅〜♪ は山本譲二。著者は秘書給与流用で実刑判決となった元衆議院議員
フィクションの世界では、障害者への配慮もあって(最近は、害もひらがな表記) 無垢な存在や社会的弱者として扱われがちだけど、戸惑ってしまうほどの剥き出しの本能と、理解しがたい全く別の精神世界は重く澱んでいて、読んでいて居心地が悪くなる。「刑務所が安心できる場所だった」「(搾取されても売春は) 楽しかったからいいじゃない」と悪びれずに語る倫理観の欠如と、コミュニケーション能力の低さ、救済の術も分からないほど深い孤独に、暗澹たる思いになってしまう。被害者としての自覚も、加害者としての罪悪感もない人たちについて、素直に考えさせられる。


『そして殺人者は野に放たれる』日垣隆 新潮社 2003年12月 ★★


心神喪失は罰せられず、心神耗弱は刑を減軽される」刑法三九条によって、無罪放免となる殺人者がいる。「強盗目的」で夫婦をめった刺しにした覚醒剤使用の男、「歩き方が悪い」と四人を跳ね飛ばした男、「テレビがうるさい」と二世帯五人を殺害した大学生。明確な診断のつかない精神鑑定により、日本の裁判で死刑が相応とされてきた、2人以上殺害した者たちが、起訴もされず事件は「なかったこと」にされ、数ヶ月から数年で社会へ戻される、現行刑法の問題点を追求するノンフィクション。引き込まれる題材ではあるけど、かなり感情的で読んでいて疲れる。


『心にナイフをしのばせて』奥野修司 2006年8月 文藝春秋 ★


1969年、入学式から僅か2週間後の横浜の高校で、問題行動のなかった男子生徒が、同じグループの少年をめった刺しにし、首を切断した。神戸の「酒鬼薔薇事件」をきっかけに、28年前の事件を調べ始めた著者は、10年に及ぶ取材の末、前科もなく社会と隔絶される少年犯罪の「その後」を社会に突きつける。


ほぼ被害者の妹の一人称で書かれており、ノンフィクションというより、被害者家族の手記か、事件を基に書いた小説のような印象。ひとつの結末へ導くようにバイアスがかかった内容が、後味の悪いものとなっている。ていうか、なぜ? どうして? どうすれば!! 繰り返される犯罪に「理由」はなくとも、第三者的には凶行に及んだ者の心が知りたいわけで、名前を変え、社会的地位のある職業に就き、不自由のないように暮らしている(ように描かれる)、元少年Aの心情は全く分からない。