3月の読書感想

『ウォッチメイカー』-The Cold Moon- ジェフリー・ディーヴァー 2007年10月 文芸春秋 ★★★★★

長く苦しみながら死んでいく被害者の耳に、時が刻まれる音が届くようにアンティークの時計を置いていく連続殺人事件が発生。犯人は現場に詩を残し“ウォッチメイカー”と名乗る。捜査を依頼された元N.Y.市警の天才科学捜査官で四肢麻痺リンカーン・ライムと、公私共にパートナーであり、刑事に昇格し別の事件を任されているアメリア・サックスは、唯一の手掛かりである時計を調べ、ウォッチメイカーと思われる人物が、同じ時計を10個購入していたと知る。


リンカーン・ライムシリーズ7作目。お馴染みのメンバー以外に、証人や容疑者のボディランゲージや、言葉遣いを観察し分析する「キネシクス」のエキスパートで、“人間中毒”のダンス捜査官が臨時でライムのチームに加わり、やりすぎなほど完璧な仕事ぶりを披露。天才ライムの分身と化し、凡人には遠い世界の人となってしまったアメリアの代わりに、有望な凡人の代弁者となる前作から引き続き登場のルーキー君が、中年女性読者ゴゴロをくすぐる魅力爆発。新入社員に来て欲しい事間違いなし。


ウォッチメイカーの存在感は正直ビミョ〜と思いきや、中盤でいつも大きな仕掛けがあるこのシリーズお約束で、フルコースの乗ったちゃぶ台を、星一徹の如くどしゃーん!! とブチまけて、草原の心地よい風が吹き抜ける清々しい展開に、“シリーズ史上最も手強い敵”というのも納得。そして、これもシリーズお約束で、これでもか!! これでもか!! これでもかっ!! と、いい加減しつこいくらい畳み掛けるクライマックスは、今回は三つ折りくらいで比較的あっさりめ。こういう展開を待ってましたという事で満足。でも5作目の「石の猿」が一番好き。いきなり本作から読んでも問題なし。



『ジャンパー -跳ぶ少年-』上・下巻 -Jumper- スティーヴン・グールド ★★★★★

自分を置いて家出した母親の記憶も僅かな17才の平凡な少年デイヴィーは、暴力的な父親から逃れようとした次の瞬間、馴染みの図書館にいると分かり驚愕、自分にテレポーテイション能力があると知る。父の支配から逃れ自由を手に入れたデイヴィーは、銀行から百万ドルを盗み出し、ニューヨークで“ジャンパー”としての新しい生活を始めるが、ある悲劇に遭い、テロリストたちへ単身で闘いを挑む。そんなデイヴィーを、国家安全保障局のエージェントが執拗に追いかける。


無制限にどこへでも“ジャンプ”できるわけではなく、1度訪れた事があり、しかも強く印象づけられた地点に限定という制約が効果的で、米国のカード社会の不自由さや、SF要素が瞬間移動だけというのも面白い。屈折した幼稚で暗い復讐の中で破滅へと突き進む後半は切なく、きっちりツボを押さえた少年の成長物語が楽しい。2008年公開ヘイデン・クリステンセン主演「ジャンパー」原作。


『嘘ばっか』佐野洋子 マガジンハウス1992年9月 ★★★

赤ずきん、白雪姫、ヘンゼルとグレーテルなど、おとぎ話を別視点から描いた、ブラックでシニカルな26の短編集。
イヤミなまでに善良な主役の影で、酸いも甘いも苦いもしょっぱい味も噛み分けてきた脇役たちの、嫉妬・妬み・嫉み・被害妄想意識が渦巻く、悪意のない分むしろ清々しい人生劇場の断片が暴走! 良識ある大人には勧めないが、殴られたら倍にしてブン殴り返すような、優等生は苦手で、他人のウワサ話大好き、自分大好き!! の人に是非。いや〜、楽しかった。死んだキリギリスに思いを馳せる「ありとキリギリス」、余韻が切ない「くらげとさる」と「かちかち山」が印象に残る。ちなみに、挿絵がキョーレツなので、電車内で読むにはキビシイ。


行動経済学 経済は「感情」で動いている』友野典男 光文社新書 2006年5月★★★

自分が「一般的な行動を取る経済人ではない人」に見事に当てはまって楽しい、楽しい。私には難しすぎて飛ばし読みだったけど、多分面白いのでお勧め。って、読んでないのに!?