温泉・旅館編

腰は痛いし、ふくらはぎは千切れそうに伸びきるしで、はて? 私はいったい何でこんな坂を上ってるんだっけ・・・って、温泉に来たんじゃん!! ってかもう、この角度はいったいナニ!? まだまだ続きそうな坂を上るより、このまま転げ落ちていきたい衝動に駆られていると、唐突に宿泊する温泉宿に曲がる看板が見えた。はー、助かった。しかしこの坂、免許を持っていない私には分からないが、相当狭いと思う。坂の入口はイケると思わせる程度に油断させておいて、 一番狭いカクカク箇所、多分170〜180センチくらいのところに差し掛かった瞬間、罠にはまった事に気付くのだな。『ガリバートンネルかよ!! 』 みたいな。

息も絶え絶え宿に入ると、若女将だという気の抜けた女性(失礼)に部屋まで案内されながら、途中の宴会場で「食事はここです」との説明。お部屋食じゃないのにガックリだが、表示がなにもないのもビックリだ。部屋数は多くないのだが、新館やら別館がくっついた建物は、迷路の如くゴチャゴチャしていて、風呂と宴会場さえ覚えておけばいいと思っていた私も、 2回曲がっただけで、もうフロントの方角が分からない。この宿には、人の方向感覚を狂わす何かがあるに違いない。はいはい、私が方向オンチなだけです。

部屋は古いが清潔で、ウワサ通り和式便所。これは、足腰弱ってる三十路ババアには、ウンコ中に足が痺れると思われる。準備を整えてから、一気に行こう。洗面所は部屋の隅にあり、突然、自分の部屋の水道が出たかとたまげたが、壁を挟んだ隣の部屋の水道の音だった。

部屋で一息つき、早速婦人風呂へ行くと、危うく厨房に入るとこだった。こんなトコで迷ってどーする。ここの露天風呂は、30分単位の貸切の野天岩風呂1つしかない。これがもう、申込みをするでもなく、いつ空いているのはさっぱり分からない。チッ、これじゃ入れないじゃん、と様子を見に行くと空いていた。人気無し?
ってか、ココ、見えそうで見えないように工夫していると思わせて、見えなさそうで実は丸見えという、デンジャラス野天風呂!! とても明るい時刻には入れないぞ。この時にはすっかり暗くなっていたが、1人で入るには広くてもったいないので、結局入らなかった。男女時間別になればいいのになあ。明るい時間は入りにくいけど。

何かと驚かせてくれる旅館で、婦人風呂の扉を開け、一畳半くらいしかない脱衣スペースにも驚いた。もしかして民宿? が、それよりもっと驚いたのは、脱衣籠の前までスリッパを履いてきたヤツがいた事で、一瞬、外で脱いできた自分が間違えてたかと思わせるほどの、堂々とした置きっぷり。水虫か神経質と思われる。ところで、脱衣籠が9つあるが、ここに9人も居たら朝の中央線の上りだ。これは風呂も狭かろうと覚悟を決めガラガラガラー・・・いやいや、泳ぐわけじゃないんだから狭くったっていいの〜と思いつつ、やっぱり狭っ!! 四畳半くらいのスペースの半分が浴槽で、蛇口は3つ。シャンプー等は揃っている。

早速、ザブザブと身体を洗って、いざ、浴槽へ。43度くらいかなぁ。ちょっと熱いものの、上部の空いている窓から冷たい風が入るからちょうどいい・・・って、あそこ、窓ないです!! ところで、脱衣スペースまで履いてきた、スリッパおばさんは、来る時に坂で車を擦ったらしい。そりゃそうだろうて。ひとしきり坂の狭さを愚痴った後にスリッパおばさんは出ていき、私1人でのんびり出来た。やっぱり、ここに9人も入っちゃいかんだろう。旅館の収容人員は60人と書いてあったが、女性が60人も泊まった日には、風呂は地獄鍋と化すだろう。どっさり汗をかいて、温冷、温冷、温冷、温冷、を繰り返しすっかり茹だったところで出た。

無事、表示のない宴会場まで辿りつき夕食。各部屋ごとに衝立で仕切ってあり、揚げたてじゃなかったというウワサの天ぷらも、この日は揚げたてだったのか美味しかった。ここは、キレイな宿に泊まりたい人にはキビシイが、“ こじんまりした温泉”で静かに浸かりたい人にはいいのではないかと思う。料金は一泊一万八百円で、食事は美味しかったし、お風呂ものんびり出来たので、私はこの宿に満足した。

しかし、風呂、便所、洗面所、ピンポンルームと数々の驚きがあったこの宿で、今回最大ビックリが、翌日の朝食に出た。何度も見かける、というか、このばーさんしかいないのではないかと思われる仲居さんが、「いま、コーヒーをお持ちします」と一度退出。そうそう、コーヒーが付くんだもんね。薄いか、煮詰まってるか、何でもいいから期待せずに待っていると、ゴールドブレンドを手にしたばーさんが戻ってきた。

パカッ
シャッ、シャッ
パチン
「ではごゆっくり」

・・・コーヒーをお持ちしますって、 ポットの湯を自分で入れてくださいね状態の、ゴールドブレンドですかい!! あははは、もう面白すぎ。あまりの衝撃に吹き出すのを堪えるのに必死で、バーさんが出て行った途端に大爆笑。素泊まりでコーヒーが出なかったって怒ってた人、持って来なさいよ、ゴールドブレンドだから。チェックアウトでフロントへ行くと誰もおらず、暫く待っていると、またもや仲居のばーさんが来た。会計までこなすとは、一番のビックリは働きものの仲居のばーさんか?