変換生活注意報
某銀行へ行った時のこと。
手続きの途中で本人を証明するものを求められたので、用意していた保険証を手渡した。場合によっては保険証ではダメな事もあるので、とりあえず戸籍謄本、住民票、パスポートと一切合切持ってった。これだけ持って来ればワタシに間違いなかろう。
こういう時に、つくづく運転免許証を持っていればなあと思うのだけれど、そうそうこういう時があるワケでもないので、パスポートか保険証で勘弁しといてやる。何を?
今回は預金の引き出しではないので、保険証だけで事足りた。
この銀行は引っ越す前に口座を開いたため、今では恐ろしく遠い駅にあり、滅多に行かないどころか、今後行く予定があるとすれば解約する時くらいのものだろうという、だったら解約してしまいたいのに、それはそれで、
「何かお使いのご予定でしょうか」
「ご結婚でしょうか」
「定期預金の何割までは引き出せますよ」
「口座だけでも残されてはいかがでしょうか」
「(ズラズラとパンフレットを並べ)こういうものもございますよ」
などなど、機関銃のように面倒くさい事を言われるので、結局ズルズルとそのままになっている。
窓口での手続きをあっという間に終え、ソファで待たされタイムへ突入。雑誌をザーっと読みつつ、手続き中の人物を観察し、飴をガリガリ噛み、首を回し、手首を回し、足をブラブラさせ、オナラをプーしてはソファを移動し、爪をガシガシいじって、カバンの中を引っかき回し、靴を脱ぎ、ささくれを引っ張って、痛ぇー!! となった頃、ようやく私の名が呼ばれた。
受取専用の窓口にいた、貧乏くさいジジイと一緒に、通帳を確認する。よしよし、やっと終わったぜ、とホッとした瞬間、このジジイが1枚の紙切れを出して、証明書類欄を指差した。
「この、9番その他のところに“ケンコウホケンショウ”と書いて下さい。」
「・・・」
・・・ケ、ケンコウホケンショウとな!!?
ジジイが書類とボールペンを私の前へ置いて待っている。
ケケケケ、ケンコウホケンショウ?????
※さて皆さん。冒頭に漢字で書いてありますが、それを見ないで“ケンコウホケンショウ”と書いてみましょう。
脳みそフル回転で検索中・・・今までの人生で500回くらいは、その文字を見てきているハズ。
カシャカシャカシャカシャ、ブブーーッ!!!
康と保と証は鮮やかにイメージ出来るものの、ケンとケンが分からねえ!! チキショー、パスポートにしときゃ良かった。ってか、謄本なら見ながら書いてもおかしくないのに。
用紙にペンを押し付けたまま、固まってしまった私を不審に思ったのか、ジジイがボールペンを指差し「ちょっと貸してください」と言ってきた。
(え? 代わりに書いてくれる? 貧乏くさいなんて思ってごめんよ、ジジイ)
私がすぐさまペンを渡すと、ジジイは側にあったメモ用紙にぐりぐりぐり、ぐりぐり。
「あ、大丈夫ですよ。ちゃんと出ます。」
そうじゃねえんだよ、ジジイ!!
こうなったら、適当に書いて誤魔化そう。小さく書けば分からんだろ。とりあえず“ケン康”からだ。宇津井ケンのケンだよ、ホラ。間のやつってシンニュウ? ん? シンニョウ? アレレ、違う? 誤魔化そうと思ったが考えが甘かった。ペンが太く、予想外にデカイ文字になってしまい、本当の漢字は書けなくても、違う文字だという事だけは分かる。
ジジイ「あー!! いや、そこは・・・こうです。」とメモに正しい字を書いた。
(そうだった、そうだった)書き、書き、書き・・・
ジジイ「あー!! そうじゃなくて!!」
パッと見て分かったと思っていたら、ビミョーに間違ってたらしい。いいじゃん、コレで読めるよー。
えーと、後は“保ケン証”だな。(ケン、ケン、検便のケン?)
「保検証」
どこかビミョーに違う!! ニンベン? テヘン? どうする、どうする、ぐちゃぐゃってやっちゃう?
しかも、この検の字でさえ、傘の部分が抜けていた。
ジジイ「あー!! そこは山ですよ、山!! 」
山? 山ってどこが? もー、お前が書けよ!! ジジイは傘の部分、山のカタチっぽいあれの事を言ってたらしいが、焦った私は木をぐちゃぐちゃっとし、ヤマヘン(?)に直してみた。何だ、こりゃ!!
恐ろしい字になってしまったところで、ジジイが“はぁ〜”と、ため息とともにメモに険と書いた。
ワタシ「あー、それそれ。あははのは〜」
ジジイ、笑わず!!
ま、とにかく回復不能なほど読めない文字になってしまったが、何とか書けた。これでいいだろ。ところが、訂正の為の印鑑をジジイに渡し、私がぐちゃぐちゃに誤魔化そうとしていた所にハンコを押すと、その下にもう1度書けと言いやがった。もう勘弁してくれよ、ジジイ。
そりゃジジイのセリフだ。
さて皆さんは書けましたか?