11月の読書感想

■『荒野へ』-Into the Wild- ジョン・クラカワー 集英社 1997年4月(1996年) ★★★★ 
1992年8月、アラスカの荒野に遺棄されたバスの中で、餓死した青年の死体が発見された。身分証はなく、貧弱な装備には腕時計もコンパスも地図すら持っていなかった。青年がヒッチハイクした車から降りてから、4ヶ月後のことだった。


裕福な中流家庭で不自由なく育ち、エモリー大学を優秀な成績で卒業したクリス・マッカンドレスは、偽善に満ちた社会と両親を嫌悪し、預金の全額を慈善団体に寄付した後、両親に何も告げず、名前を変えて、僅かな所持金すら焼き捨て、放浪の旅に出る。遺体の身元の判明後、残された日記や、労働とヒッチハイクを繰り返し旅した2年の間に出会った様々な人たちをインタビューし、クリスに何が起こったのかを辿るノンフィクション。


年長者たちの忠告をことごとく聞き入れず、あまりにも頑ななクリスの旅の危うさと、回避できたはずだという思いに心が重くなるが、出会った人たちに鮮烈な印象を残し愛された彼の強い意志に、未熟な若者の愚かな末路と片付ることのできない理由が見えてくる。登山家の著者は主観を排除しながらも、スティッキーン氷冠での単独登攀した体験とクリスのアラスカ冒険を重ね合わせ、控え目に寄り添う。死を望んではいなかった青年の最期に納得はしたが、しかし、しかし、しかーし!! 頭が良くて、金もあって、どうやら見た目も魅力があって、子どもの頃から商才もあったというのに、なんてもったいないんだコンチクショー!! ショーン・ペン監督「イントゥ・ザ・ワイルド」の原作。購入してもいいけど、図書館で。


■『ザ・ケイブ』-The Cave- アン・マクリーン・マシューズ 扶桑社ミステリー 1998年10月(1997年) ★★★ 
精神衛生の分野における福祉予算削減の法案を阻止できず苦悩する臨床心理学者のヘレンは、自分が自立した子どもたちの最優先ではなくなった事にも打ちのめされ、亡夫との幸せの思い出がつまった湖畔へ向かう。しかし、人里離れた場所にあるキャビンには悪意を持つ何者かが潜んでいた。


監禁系で読んだ事のないパターンだった3分の1までは面白く、このまま最後までいくかと期待爆発していた中盤でガックリきて、後半持ち直し、窒息必至のクライマックスへ突入。赦しを切望する大量殺人鬼を、監禁され心を丸裸にされた心理学者は救えるのか? もう千歩くらい踏み込んだら良かったけど、ホロコーストと重ね合わせ、単なる異常者の監禁事件に終わらせないところがいい。購入無用、図書館で。


■『発言小町 誰にも聞けなかった女の悩み』竹書房 2008年10月 ★★
発言小町』とは、読売新聞が運営する「YOMIURI ONLINE」の女性向けコンテンツ「大手小町」内にある掲示板。対人関係の悩みや、生活圏内で強要される慣習への疑問、日々のちょっとした雑談など、女性だけでなく「男性発」のトピもあり(小町での男性の立場は理不尽なまでに弱い)、不適切な投稿への管理もしっかりしている。


本書は、パチンコをやめない同棲相手の事で悩む20代後半の男性(自分で考えろ!!)、“嫁は最後に風呂に入れ”と譲らない姑に納得いかない主婦(意味わかんね!!)、事故死した夫の子どもを産むべきか決断を迫られる3児の母、実年齢55才だが46才と偽り35才と交際中の女性(ホントかよ!!) など、20の投稿と返信を抜粋したもの。


今年、発言小町を知った私は魑魅魍魎が跋扈するリアル渡鬼の世界にすっかりハマリ、トンチンカンな強者が現れないかとほぼ毎日チェック。ヒマ人か!! が、さすがにこの本は無難な内容ばかりで、小町ユーザーにこてんぱんに叩かれようが我を通すトピ主から目が離せない暴走系(※1)、非難集中の激しく荒れる系(※2)、脳内妄想が暴走系(※3)、心底くだらない悩み系(※4)、スットコドッコイな輩に翻弄されイライラハラハラ系(※5)など、ときどき現れる突き抜けたトピがなくて残念。ああもう、私に選ばさせてくれれば傑作揃いなのに!! ダメですか、そうですか。検索すればいつでも読めるので買う必要なし。


※1「住宅ローンで長男を困らせないようにと・・・」
※2「勝気な若輩者に我が物顔をされて困っています」
※3「先輩の弟と結婚したい」
※4「cherのエコバッグをどうしてもほしがる彼女について」
※5「夫の後輩達にキレてしまいそうです」