姉さん、事件です! パート3

数年前のこと。甥っ子に「じいちゃん、じいちゃ〜ん、“もののけ”って何?」と聞かれた父は、自信満々に「“そこのけ”の事だっ」と言い放った。いい加減にも程があるだろ!!


先週末、農作業の助っ人で実家へ行ってきた。収穫の人手が足りないのだけど、私はビミョーな高さでめまいがするので、地上部隊として参加。もう、脚立から見下ろした高さを想像しただけで、胃の辺りがキュッと縮む。高所恐怖症の主人公が、テーブルから落ちたペンを拾おうと床を見下ろして、ぐらんぐらんとめまいを起こす某映画のシーンのように目が回ってしまう。塔のてっぺんで殺人の目撃者になっちゃって、証言を求められたらどうしよう。そんな場面には滅多に遭遇しないですか。そうですか。


で、作業も一段落ついた午後。おせんべいでもないかと台所を探りに行くと、「サラダを買ってきたけど食べる?」と母。食卓の上にはパックに入ったサラダがひとつ。いやいや、3時のおやつにサラダはないよ、お母さん。と、思いつつ、サラダの雰囲気によっては食べてもいいかも。サラダの雰囲気ってどんなだ。パックを手に取ってみると、ポテトサラダだった。ポテトサラダはご飯の時に食べよう、な雰囲気なので止めた。


ふと見るとサラダのパックの中に何か入っている。固そうな白い塊がひとつ。マシマシ用のマヨネーズかな?




ポテトサラダに直接乗っているので、袋を開ける時に手がベタベタになりそう。袋に文字が書いてある。えーと・・・、牛脂。あー、そうだそうだ。何かに似ているなと思ったけど、牛脂だ、牛脂。牛脂? 牛脂って!!




何故にポテトサラダの中に牛脂が!! いやいや、入れないだろう。ポテトサラダには。ポテトサラダに牛脂。気持ちわるー!! サラダの容器を開けた形跡がないのに、どうやって中に入った? 牛脂。入る場面が全然思いつかない。うっそ、密室トリックってやつ!?


ジャージャージャー、ジャージャージャー、ダンダンダンダーン、ダンダンダーン、チャララララ〜♪ 『ポテトサラダ事件、密室トリックの謎!! 牛脂はいかにして容器に入ったか?』


今年最大の実家ミステリーに興奮して、一緒に作業していた姉に報告してみた。姉はサスペンスドラマ好きで、各チャンネルのシリーズものにも詳しいので、こういう庶民的な事件に強いに違いない。サスペンス刑事、出動ー!! ていうか、事件じゃないけど。姉の推理は最後に。


翌日の午前中は、父と2人で黙々黙々黙々黙々黙々黙々黙々黙々黙々黙々黙々黙々と作業をこなす。


私「これは10個でいいんだよね」
父「体操っ」


体操って何だよ!! 突拍子がないにも程があるので、いまの質問のどこが体操などという答えになるのか、聞いてみたかったけど止めた。ただでさえ作業が遅れているというのに、薮をつついてはいけない。


多分、「そうだ」と言いたかったんだろうと思う。「おうっ」みたいな。「それでいいぞっ」みたいな。「頼んだぞっ」みたいな。それが、父の脳内を巡り巡っているうちに、「体操っ」になっちゃったんだと思う。ホントかよ!! 違いすぎだろ!!


途中、書類のコピーの必要があったため、私が近所のコンビニへ行く。


私「他にコピーが必要な書類はある? 一緒に取ってくるけど」
父「おにぎりを2個買ってきてくれ」


いやいや、お昼ご飯の話じゃなくてさ。


私「ハイハイ、おにぎりね。コピーは2枚ずつでいいよね? 」
父「昆布と梅を1個ずつだな」


具の種類を聞いてるんじゃないよ!!


父「コピーなら、ファミ○ーマートよりマックの方が近いぞ」


おっと、コピーの話に戻った。知らなかった。マク○ナルドってコピー機があるんだ。でも家から遠いよね・・・って、危うく2秒ほど騙された。マックはマク○ナルドじゃない。ファミ○ーマートは近所にはないので、1番近いセブン○レブンの事を指していたというのは分かったけど、同じくらいの距離にあるらしいマックが、どの店の事を言っているのか、皆目見当がつかない。この辺りに店なんかないけど? フツーはハンバーガー屋さんか、りんごコンピューターの方だと思うところだけど・・・。これも、サスペンス好きの姉に後で聞いてみたところ、父の言うマックとはスーパーのイオンの事らしい。分かるかよ!! イオンに名称が変更する前がマックスバリューだったので、今でもマックと呼んでいるそうだ。


父「夕飯は“しゃぶしゃぶ食べほうかい”に行こう」食べほうかいって何だ。崩壊か? 崩壊なのか? 崩壊してどうする!!


実家で食べ盛り年齢なのは甥っ子1人しかいないのだが、その甥っ子もそれほど食べる方ではない。食べ放題とかみんな無理だからと、何度父に言っても行きたがる。45歳になる私の事も、未だ「食べ盛り」だと勘違いしている節があるので、ここはビシッと断っておこう。


私「もうさー、肉とかあんまり食べられないかな〜」←ビシッと言おうと思ったけど弱気。
父「俺も肉はダメだな」


なんだよそりゃ!!


取りあえず、“食べほうかい”については、やんわり路線で姪に指摘させよう。姪に頼んでみたが断られた。


私「姪ちゃんさー、食べほうかいじゃなくて、“食べ放題”でしょ、ってじいちゃんにツッコミを入れてよ〜」
姪「私は生半可なツッコミはしないから」


いまが本気のツッコミ所なのに!!


最後に『ポテトサラダ事件、牛脂密室トリックの謎!! 』
姉の推理によれば、その店のサラダは量り売りなので、母がうっかり入れたに違いないという事だ。どんなうっかりな状況なんだ!!


多分、こんなうっかりな状況だ(脚本、私)。
肉売り場で「ご自由にどうぞ」の牛脂を1コ取った母は、それを手に持ったまま買物を続けていた。なんか手の平が冷たいのよねぇ。サラダコーナーへ行ってみると、あらあら、ポテトサラダが美味しそう。でも、自分で入れる量り売りなのね。めんどくさー!!


容器のまま食卓へ出せるように、なるべく綺麗に盛りつけようと集中する母。卵は最後に入れよう。
「この、丸容器大って持ちにくい。滑るし」手に持った牛脂のせいで、容器が持ちにくいという事には気付かない。


蓋を閉める際にモタついてしまい、手に持っていた牛脂がポロリと容器の中に落ちた。←ここか!! ここで入ったのか!!
それに気付かず、封をして料金シールを貼って会計へ。


うーん、納得、納得。事件解決だ〜。って、ホントかよ!! 気付くだろ!! まー、本人に確認したわけじゃないけど、そんなところではないかと。ちなみに、その牛脂はサラダを食べる前に、姉が密かに容器から取り出して冷蔵庫に入れました。