紀伊半島11 高野山「刈萱堂」


「刈萱堂」


父・苅萱道心(かるかやどうしん) と母・千里姫、その息子・石童丸の親子の悲劇の物語を絵で紹介する堂。話を追って堂内を一巡する。


■登場人物
加藤左衛門尉繁氏(かとうさえもんのじょうしげうじ)・・・名前が長いので勝手に省略以下、左衛門。
桂子御前・・・左衛門の本妻。話の流れ的に“おかちめんこ”かと思いきや、そこそこ美人。
千里姫・・・左衛門の妾。すごく美人で若い。
石童丸・・・左衛門と千里姫の息子。


有力者の娘・桂子の乗っていた馬が暴走し、うっかり出くわした筑前国刈萱荘博多の若き領主・左衛門が格好よく救う。桂子の王子さまキター!ケツが青いお坊っちゃん左衛門は、周囲の者たちに勢いよく流されて、あっという間に桂子と結婚。美人だし、まいいか!左衛門は割と幸せそう。


それから数年後、ひとりで山をぶらぶらしていた左衛門は、お付きの者と歩いていた若い娘・千里姫と出会う。左衛門はその美貌にイチコロで、すぐさま熱烈猛アタック!すんなり千里姫を側室に迎えると、左衛門は美しい2人に囲まれて春は花見、秋はお月見と優雅に暮らす。桂子と千里姫も仲良しバンザイ!いいのか、領主がこんなバカで。この時、桂子は腹の中では、若い千里姫に対するドス黒い嫉妬心が渦巻いていたのだ。こえええぇぇぇぇ!


ある夜、親しげに囲碁をしている桂子と千里姫の姿を、障子越しに見た左衛門は衝撃を受ける。2人の長い黒髪は逆立ち、蛇が絡み合って戦うように見えたのだ。なんで? 2人は仲良しだと思ってたのに!お前だけだよ、そんな事を思っていたのは。


ワクワクしてきたところで、その次の絵。桂子の憎しみは深まり、ついに千里姫を亡き者にしようと企てる。いきなりの黒い展開!桂子は家来に千里姫の首を持ってくるよう命ず。確実にあの世へ送ってこい!


思い悩んだ家来は川の近くを歩いていて、命を絶とうとする若い娘をナイスなタイミングで助ける。「良ければ事情を話してみなさい。」若い娘の身の上話を聞いていた家来は、ピコーン!と閃いた。そこできっちりと死なせてあげて、さっくり首を切り落として、ホクホク顔で持ち帰る。渡りに船、怒れる本妻に偽の首だ。助けるんじゃないのかよ!


なんかモヤモヤする家来の計らいで、偽の首を受け取り勝ち誇る桂子は高笑い。そして千里姫は無事に加藤の家から逃れて身を隠す。この時、左衛門も知らなかったが、千里姫は子どもを身籠っていたのだ。この後の展開はきっと、千里姫が死んで子どもが身元を偽り屋敷で働いて、そうとは知らない桂子とその子どもにネチネチ虐められるが、最終回近くになって第三者がやっと真実を左衛門に話して親子は涙の抱擁、桂子親子の悪事を派手に暴いてスッキリだな。と思ったら全然ちがう!


「この事件は左衛門を深く後悔させ、人の世の無常を強く感じさせました。」・・・って、なにその遥か上空から目線。お前が言うか!


人間の業の深さに嫌気がさした左衛門は、領地と妻子を捨て出家を決意。いつの間にか桂子との間にも子どもがいたらしい。ていうか、自分だけ逃げるつもりかこの野郎!イカれた本妻を何とかしろ。誰にも行き先を告げずに家を出た時、左衛門は21歳だった。うっそ、まだ21歳!


太山寺の観海上人のもとに身を寄せた千里姫は無事男児を出産し、左衛門の幼名と同じ石童丸と名付けた。その頃、左衛門は「寂昭坊等阿法師・苅萱道心(かるかやどうしん)」と名乗り、源空上人(法然) のもとで修行し高野山へ入る。桂子の事も千里姫の事も完全に忘れてるな、こりゃ。


時は過ぎ、13歳になった石童丸が父を慕う頃、高野山に刈萱道心という僧がいるとの噂を聞く。刈萱荘にちなんだ名前のその僧こそが左衛門に違いない。ホントかよ!いや、当たりだけど。千里姫と石童丸は父親探しの旅にでる。現在の福岡県から高野山まで歩いた母子は、ついに麓の学文路(かむろ) へ辿り着いた。しかし高野山は女人禁制で女性は入山できない。石童丸は千里姫を麓の宿に残し、1人で山を登っていく。


慣れぬ高野山の山道で3日3晩彷徨った石童丸は、腹が減って倒れてしまう。弁当、持ってこいよ!偶然助けた僧侶は左衛門だった。千里姫から聞かされていた父の特徴によく似た僧侶を前に、石童丸はこの人が父親ではないかと期待して尋ねる。


「刈萱道心という方を探しています。ご存知ありませんか?」


驚いた左衛門は自分の名を告げずに、石童丸の身の上話を聞く。はて、どこかで聞いたような話だけど?・・・ていうか、お前息子か!しかし左衛門は、棄恩入無為の誓(俗世間を捨て仏に仕える) を立てた身であるため、息子が居ると知ってもどうする事も出来ない。つくづく勝手な奴だな、オイ。


左衛門は「あなたが尋ねる人は去年の秋に死んでいる。」と偽りを言う。しかも、適当に近くにあった墓を指差し「そこにある墓がそうだ。」と大ウソかます。適当にも程があるだろ!はるばる遠くまでやってきた石童丸は、墓の前で泣き崩れた。いやそれ、誰だか知らない人の墓だから。


左衛門は早く母のもとに帰るよう石童丸に諭す。実の父親に会いながらそれと知らずに石童丸が母親の元へ戻った時には、長旅の疲れによる急病で千里姫は既に死んでいた。えええっ!ちょっと山に登ってきただけなのに!


頼る身内を失った石童丸は、父の面影を感じさせる左衛門を訪ねて高野山へ戻り出家。左衛門の弟子となり、2人は30年以上刈萱堂で修行を続けた。左衛門は生涯親子である事を伝えなかったという。終わり。左衛門にいちいちツッコミながら読んだので楽しかった。ていうか、哀話という事なんだけど。ところで、桂子はどうなった。


旅の話と共に読書コーナー。

苅萱道心と石童丸のゆくえ―古典世界から現代へ― (新典社選書26)

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苅萱 石童丸物語 (人間愛叢書)

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